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大麦若葉末含有粉末飲料の食後血糖値上昇抑制効果
神谷 智康 1),髙野 晃 1),草場 宣廷 1),高嶋 慎一郎 1),八尋 衣里奈 1)
池口 主弥 1),髙垣 欣也 1),杉村 春日 2),片山(須川) 洋子 3)
1)株式会社東洋新薬 開発本部 2)セラヴィ新橋クリニック 3)大阪青山大学 健康科学部
応用薬理 vol.85 no.1/2, 1-6, 2013
ABSTRACT(概要)
To investigate the suppressive effect of powdered juice containing young barley leaf powder (YBLP) on postprandial blood glucose level, the double-blind crossover study was conducted on 25 healthy volunteers whose fasting blood glucose levels were less than 126 mg/dL. The volunteers were orally administered active food (Powdered juice containing YBLP) or placebo food (Powdered juice without YBLP) with approximately 300 grams of rice ball. The blood glucose and insulin levels were measured at 0, 30, 60, 90, 120 minutes after the meal ingestion. As a result, active food supplementation significantly suppressed the increase of postprandial blood glucose level at 60 and 90 minutes after meal compared to placebo food. Area under the curve (AUC) of the blood glucose levels up to 120 minutes in the YBLP group was also significantly lower than that of placebo group. Additionally, AUC of both the blood glucose and insulin levels up to 120 minutes in the YBLP group were significantly lower than those of placebo group, when analyzed 7 subjects with plasma glucose level more than 180 mg/dL at 60 minutes after meal, who were defined as borderline diabetes. Moreover, any treatment-related side effects were not observed. These results suggest that powdered juice containing YBLP may be useful for the control of postprandial glucose level.
Keywords: Young barley leaf powder / Postprandial blood glucose / Postprandial insulin level / Borderline diabetes
緒言
大麦若葉末は,イネ科オオムギ属に属するオオムギの出穂前の茎葉を刈り取った後,洗浄,裁断,乾燥,粉砕などの工程を経て製造される淡緑~濃緑色の粉末である.大麦若葉末には食物繊維が35~65%含まれ,そのうち90%以上が不溶性食物繊維であることが知られている (古賀ら,2012).大麦若葉末は,食物繊維を豊富に含有するため,ヒトにおいて排便量や排便回数の増加作用を発揮することが報告されている (池口ら,2004; 池口ら,2005; 池口ら,2006; 古賀ら,2012).食物繊維は,1970年代以降,大腸癌,糖尿病,虚血性心疾患などの生活習慣病を予防する効果のあることが明らかにされ,健康を維持する上で重要な生理的役割を果たす成分として注目されるようになった (海老原,2008).近年では,食後の中性脂肪上昇を抑制する作用(鈴木ら,2010),食後の血糖値上昇を抑制する作用 (柳沼ら,2004),満腹感を亢進させる作用 (Isaksson et al, 2009)などのメタボリックシンドローム関連諸症状へ及ぼす影響についての報告が多くなされ,食物繊維に注目がそそがれている.
このうち,食後の血糖値上昇を抑制する作用については,従来,ペクチンやグルコマンナンなどの水溶性食物繊維の粘度によって胃内滞留時間を遅延することが,血糖値の上昇を抑えるものと考えられており,不溶性食物繊維には食後血糖値抑制に対しての効果はないものと考えられていた.しかしながら,近年,Sekiらは不溶性食物繊維の摂取が食後血糖値の上昇を抑えることを報告した (Seki et al, 2005).不溶性食物繊維の食後の血糖値上昇を抑制する作用メカニズムについては,不溶性食物繊維が消化管内での粘度を上昇させる結果,糖質の消化管からの吸収を遅延させるものと推察されており (Sakata et al, 2007; Takahashi et al, 2005),この消化管での粘度上昇は,不溶性食物繊維の質,特に,その保水力と関係があることが報告されている (Takahashi et al, 2009).
大麦若葉末は,不溶性食物繊維を豊富に含み,その最大抱水量や沈底体積は,セルロースや小麦ふすまのそれと比較して大きいことを著者らは確認している (未発表データ).すなわち,大麦若葉末は高い保水力を有するため,消化管での粘度を上昇させる結果,食後の血糖値の上昇を穏やかにするものと推察される.実際,大麦若葉末の食後の血糖値上昇を抑制する作用の活性が,その不溶性食物繊維に富む画分に存在すること,さらに,健常成人男女に大麦若葉末1.5 gを米飯と同時に摂取させると,食後30分後の血糖値の上昇を有意に抑制することを観察している.
なお,我々は,健常成人を用い,1日あたり20.4 gの大麦若葉末を4週間にわたり摂取させた試験および1日あたり5.1 gの大麦若葉末を12週間にわたり摂取させた試験において,その安全性に問題を生じないことを確認している (池口,2011).
以上の背景から,我々は,大麦若葉末を1.5 g含有する粉末飲料を作成し,その摂取が食後血糖値へ及ぼす影響を知ることを目的として,クロスオーバー法による二重盲検試験を実施した.
方法
対象者
本試験の公募に対して応募のあった20歳以上65歳未満の糖尿病境界域または健常成人 (空腹時血糖が126 mg/dL未満) を被験者候補とした.試験の目的・内容について十分な説明を行い,被験者から書面で試験参加の同意を得た上で事前検査を行い,下記の除外基準に抵触しない29名 (男性:19名,女性:10名) を被験者とした.
除外基準:血糖値に影響を及ぼす可能性がある医薬品を使用している者.治療が必要な糖尿病と診断された者.重篤な腎・肝疾患を有する者または治療中の者.血糖値に関連のある慢性疾患を有し,薬剤を常用している者.消化吸収に影響を与える消化器疾患,手術歴がある者.試験期間中に血糖値に影響を及ぼす可能性があるサプリメントや健康食品の摂取を止めることができない者.試験開始前3ヶ月以内に400 mLを超える全血採血または成分献血を行った者.スクリーニング検査で貧血症と診断され,頻回採血に適さない者.薬物依存,アルコール依存の既往歴あるいは現病歴がある者.試験食品成分に対してアレルギーを有する者.妊娠している者,試験期間中に妊娠の意思がある者,授乳中の者.他の食品の摂取や薬剤を使用する試験,化粧品及び薬剤などを塗布する試験に参加中の者あるいは参加の意志がある者.その他,試験責任医師が被験者として不適当と判断した者.
本試験は医療法人社団進興会セラヴィ新橋クリニック試験審査委員会 (委員長:柳田やよい) の審議・承認 (承認日:2012年7月31日) を得た上で,ヘルシンキ宣言の精神にのっとり実施した.
試験食品
被験食品は大麦若葉末1.5 gに還元麦芽糖および抹茶を混合した後,造粒し,顆粒状に調製した粉末飲料 (2.1 g/袋) を使用した.対照食品は,大麦若葉末を含まず,還元麦芽糖および抹茶に着色料と香料を用いて被験食品と外観および風味を区別できないよう調製した粉末飲料 (0.8 g/袋) を使用した.なお,被験食品および対照食品は,いずれも100 mLの水に溶かして被験者に提供した.
被験食品および対照食品の熱量,栄養成分値および食物繊維含量の結果をTable 1に示した.
試験方法
被験者を2群に分け,対照を用いた二重盲検クロスオーバー試験を行った.すなわち,試験に直接関与しない割付け責任者が,スクリーニング検査結果に基づいて無作為に2群に割付け,性別,年齢,空腹時血糖,負荷ピーク時の血糖値において差がないことを確認した上で,その割付け結果を採用し,第1試験日はA群には被験食品を摂取させ,B群には対照食品を摂取させた.第1試験日から2週間あけて第2試験日を設けた.第2試験日はA群には対照食品を摂取させ,B群には被験食品を摂取させた.試験期間中は過量のアルコール摂取を控えさせ (1日あたりビール500 mL以下),特に,各試験日の2日前からは禁酒とした.また,指定食を除いて試験以前と同様の生活を送るよう指導した.試験前日からは医療機関内の宿泊施設に宿泊させた.前日は,各被験者に同一の夕食を摂取させた後,21:00以降は水以外の飲食を禁止した.試験当日は検査開始1時間前から試験終了まで禁煙とし,試験開始から終了まで用意された試験食品・米飯等以外の一切の飲食を禁止した.試験当日は検査開始30分前に問診および血圧・脈拍数の測定を行い,体調に異常がないことを確認して食前の採血 (空腹時血糖値の測定) を行った.採血終了後,米飯 (おにぎり3個:合計304.7 g,熱量559 kcal,タンパク質13.2 g,脂質2.9 g,炭水化物119.6 g) を被験食品または対照食品とともに10分以内に摂取させた.なお,米飯の摂取にあたっては,被験者への倫理的配慮の下,試験食品以外の水を摂取することを許容したが,第1試験日と第2試験日でその摂取量を揃えるように指導した.なお,各試験日において水の摂取量を記録した.
被験食品または対照食品は,試験に直接関与しない者が提供することによって,被験者および医師をはじめとする試験従事者に被験食品,対照食品の区別が付かないようにした.試験食品摂取30分,60分,90分,120分後に採血を行い,血糖値およびインスリン濃度の測定を行った.
なお,試験当日は,問診後から試験終了までの間,下痢などの消化器に関する自覚症状を記録したほか,第2試験日終了1週間後に同様に聞きとり調査を行った.
統計解析
測定値は平均値±標準誤差で示した.血糖値およびインスリン濃度については血中濃度曲線下面積 (Area under the curve:以下AUC) を台形法により算出した.統計解析は,血糖値AUCの値について一般線形モデルにより反復測定分散分析を行い,持ち越し効果の有無を検定した.各試験食品摂取時の測定値については,対応のあるt検定を用いて行い,有意水準は両側検定で5%とおいた.統計解析ソフトはPASW Statistics18を使用した.
結果
中止者の報告
試験期間中に試験食品とは無関係の理由で2名が試験を中止したため,27名が試験を完了した.なお,第1試験日と第2試験日の水の摂取量のバラツキが大きかった1名および試験期間中に過量のアルコールを摂取した1名の計2名を解析対象から除外し,25名を解析の対象とした.解析対象者25名の被験者背景をTable 2に示した.
全被験者での解析結果
血糖値AUCについて,持ち越し効果の検定を行ったところ,時期効果 (p=0.60),順序効果 (p=0.85)ともに認められず,持ち越し効果は認められなかった.
血糖値においては,被験食品摂取時および対照食品摂取時ともに,糖負荷60分後に最大値となり,その後経時的に低下した.被験食品摂取時には,糖負荷60分および90分後に,対照食品摂取時と比較して有意に低い値を示した (p<0.05).なお,インスリン濃度においては,測定したいずれの時点においても食品間に有意差は認められなかった (Fig. 1).
糖負荷直後から糖負荷120分後までのAUCの結果をFig. 2に示した.血糖AUCにおいて,被験食品摂取時では対照食品摂取時と比較して有意に低い値を示し (p<0.01),インスリンAUCにおいては,被験食品摂取時に対照食品摂取時と比較して低下する傾向 (p<0.10) が認められた.
層別解析結果
糖尿病境界型に準じた取り扱い (経過観察) が必要とされる,糖負荷60分後の血糖値180 mg/dLを基準とし (門脇,2009),それ以上の被験者とそれ未満の被験者で層別解析を実施した.その結果,糖負荷60分後の血糖値が180 mg/dL以上の群においては,被験食品摂取時に,糖負荷60分後および120分後の血糖値が,対照食品摂取時と比較して有意な低値を示した.インスリン濃度は,糖負荷60分後に,被験食品摂取時に対照食品摂取時と比較して有意に低値を示した (Fig. 3A).また,血糖AUCは,被験食品摂取時 (360.2±24.2 mg・h/dL) と対照食品摂取時 (377.1±26.8 mg・h/dL) の間に有意差が認められた.インスリンAUCにおいても,被験食品摂取時 (45.1±11.9 μU・h/mL) と対照食品摂取時 (51.3±13.3 μU・h/mL) との間で有意差が認められた.一方,糖負荷60分後の血糖値が180 mg/dL未満の群においては,血糖値およびインスリン濃度共に群間に有意差は認められなかった (Fig. 3B).
自覚症状の結果
試験食品の摂取によって下痢などの消化器障害の発現は認められなかった.
考察
食後の高血糖は,心血管疾患発症の危険因子であることが明らかにされている.ヨーロッパ系やアジア系の男女多数を対象とした前向きコホート研究の結果,空腹時血糖値よりも糖負荷120分後の血糖値の方が,心血管疾患や死亡率の優れた指標であることが報告されている(Nakagami et al, 2006; The DECODE study group, 1999).さらに,正常耐糖能の健常者では食後120分後の血糖値が140 mg/dLよりも上昇することはほとんどないこと (JDRF Continuous Glucose Monitoring Study Group et al, 2010),75 gブドウ糖負荷後の120分値で140 mg/dL未満が正常と定義されていることからも (IDF Clinical Guidelines Task Force,2007),食後血糖値,特に食後120分後の血糖値をコントロールすることは極めて重要である.本試験の結果から大麦若葉末含有粉末飲料は,健常者または糖尿病境界域者の食後血糖値の上昇を抑制することが示唆された.特に,糖負荷60分後の血糖値が180 mg/dL以上の糖尿病境界型 (門脇,2009) 7名を解析対象とした場合,食後120分後の血糖値が,被験食品摂取時 (187.7±25.6 mg/dL) に,対照食品摂取時 (201.1±26.1 mg/dL) と比較して有意に低い値を示した.さらに,この7名は,血糖AUCおよびインスリンAUCともに被験食品摂取時に,対照食品摂取時と比較して有意に低い値を示したことからも,大麦若葉末含有粉末飲料が,食後血糖値の管理が必要な糖尿病境界域者にとって,有用な食品の一つであることを示すものである.
不溶性食物繊維は,その保水力により,消化管での粘度を増加させることで食後血糖値の上昇を穏やかにすると報告されている (Sakata et al, 2007; Seki et al, 2005; Takahashi et al, 2009).前述の通り,我々は,大麦若葉末の食後の血糖値上昇を抑制する作用の活性が,その不溶性食物繊維に富む画分に存在することを確認していることに加え,大麦若葉末には保水力の高い不溶性食物繊維が豊富に含まれることから,本試験で観察された食後血糖値の上昇抑制は,消化管内の粘度が上昇したことにより栄養素の拡散が抑制された結果生じた可能性があると推察される.しかしながら,不溶性食物繊維は,糖質を物理的に吸着する作用やアミラーゼ阻害作用を有することも報告されているため (Ou et al, 2001),本試験で認められた大麦若葉末の食後血糖値の上昇を抑制する作用機序については,消化管内容物の粘度上昇以外の可能性も含め,今後検証していく必要がある.
本試験は,大麦若葉末含有粉末飲料の摂取が食後血糖値およびインスリン濃度へ及ぼす影響を検証することを目的として,糖尿病境界域または健常成人を対象に二重盲検クロスオーバー試験を実施した.その結果,大麦若葉末含有粉末飲料の摂取により,食後の血糖値およびインスリン濃度の上昇が抑制された.特に,糖尿病境界域者においては食後高血糖や高インスリン濃度を抑制するという顕著な効果が確認された.また,試験食品の摂取による下痢などの消化器障害の発現は全く観察されなかった.
引用文献
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