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大麦若葉末の粒度の違いが
整腸、腸管免疫機能および
腸内細菌叢に及ぼす影響について

大麦若葉末

森川琢海,友澤寛,北村整一,鍔田仁人,山口和也
株式会社東洋新薬

New Food Industry vol.57 no.11, 17-21, 2015

ABSTRACT(概要)

我々はこれまでに青汁素材の微粉砕製法を確立し、嗜好性に優れる青汁を提供してきたが、今回、大麦若葉末の生理作用として知られている整腸作用、免疫調節作用および腸内細菌叢改善作用に対して、大麦若葉末の粒度の違いに着目し比較評価を行った。粒度の異なる2種類の大麦若葉末をマウスに2週間摂取させたところ、糞便重量や盲腸内容物pHにはほとんど違いはみられなかったものの、粒度の細かい大麦若葉末を摂取することで、腸管免疫賦活化の指標の1つである糞便中IgA量が増加した。また大麦若葉末の摂取により、腸内細菌叢にも変化がみられ、粒度の細かい大麦若葉末を摂取したマウスは粒度の粗いものを摂取したマウスと比較して糞便中のPrevotella属の増加が認められた。本研究により、大麦若葉末の粒度が、腸管免疫機能を亢進させ、腸内細菌叢にも影響を与えることが示唆された。

はじめに

腸は、内なる外と呼ばれ、口から体内に取り入れられる様々なものに曝されている。その中には病原性の細菌なども含まれ、腸内に共生している細菌と合わせて存在する細菌は約100兆ともいわれている。腸内細菌叢は、腸内細菌の共生と病原菌などの排除の仕組みによりバランスが保たれ、そのバランスと腸管内の免疫機能は密接に関わりあっている1)。この腸内細菌叢のバランスに影響を与えるものの一つが食事性因子である。例えば、炭水化物は腸内細菌が資化することで産生される短鎖脂肪酸により、腸管免疫機能の亢進に寄与する2)。一方、高脂肪食の摂取は腸内細菌叢が乱れるだけでなく、腸管免疫機能も低下することが知られている3,4)。このように、腸内細菌は免疫機能の調節に重要な役割を果たしているが、外来の食べ物によっても大きく左右される。
こういった食事性因子に影響を受ける代表的な身体症状として便秘がある。近年、便秘患者は増え、特に女性は男性の2倍近くも便秘症状を経験している5,6)。慢性便秘患者は腸内細菌叢が乱れ、免疫応答も変化するという報告があり7)、便秘の解消が腸管免疫機能の維持にとって重要であることがうかがえる。そして、便秘の発症には食物繊維摂取量の不足が大きく影響する。食物繊維は非消化性のためそれ自体が便量に影響を与えるだけでなく、腸内細菌叢や腸管免疫の制御にも関わっている8)。しかし、近年食の欧米化が進み、食物繊維摂取量の不足による疾病のリスクが懸念されている8)。そのため、食物繊維摂取量の不足を解消することは現代人にとって非常に重要である。

食物繊維摂取量の不足を補う健康食品として青汁が挙げられるが、その主原料として使用されているものが大麦若葉末である。大麦若葉末はイネ科オオムギ属に属するオオムギ(Hordeum vulgare L.)の出穂前の茎葉を刈り取った後、洗浄、裁断、乾燥、粗粉砕、殺菌、微粉砕など複数の工程を経て製造される緑茶様の風味を有する淡緑~濃緑色の粉末である。大麦若葉末には食物繊維が35~65%含まれ、そのほとんどが不溶性食物繊維である9)。我々はこれまでに青汁素材の微粉砕製法(特許3277181)を確立し、嗜好性に優れる青汁を提供してきた。さらに、大麦若葉末の機能性についても研究を行い、整腸作用、血糖値上昇抑制作用、血中コレステロール低下作用、大腸がん抑制作用など様々な生理機能を報告してきた10-13)。また、大麦若葉末由来の食物繊維を関与成分とした、便通改善作用の特定保健用食品表示許可も取得している。

このように大麦若葉末自体の機能性に着目した研究報告は我々をはじめ多くの研究者によって行われているが14)、素材の加工時における性状の違いによる機能性を比較した研究報告は少ない。そこで我々は、大麦若葉末の微粉砕加工時の粒度の違いが、マウスの整腸作用、腸管免疫賦活作用および腸内細菌叢にどのように影響を及ぼすかを検討した。

材料および方法

粒度の異なる大麦若葉末の調製

大麦若葉を洗浄、裁断、乾燥、粉砕し、大麦若葉末粒度粗(粒度<1mm)を得た。さらに粉砕を重ね、大麦若葉末粒度細(粒度<41.7μm)を得た。これらを被験物質として試験に使用した。

試験デザイン

6日間馴化させたICRマウス(雄性、5週齢)を体重値および湿糞便重量が均一となるように1群7匹ずつ、①大麦若葉末無添加飼料群(コントロール群)、②大麦若葉末粒度細10%添加飼料群(粒度細群)および③大麦若葉末粒度粗10%添加飼料群(粒度粗群)の3群に分けた。各試験飼料を14日間自由摂取させ、試験2日目、7日目および14日目に前日から24時間の糞便を回収した。14日目に回収した糞便は、湿重量、IgA量の測定および腸内細菌の16S rRNA遺伝子に基づいたリアルタイムPCRによる腸内細菌叢の解析を行った。また、試験14日目にマウスの盲腸内容物を回収し、盲腸内容物のpHを測定した。

試験飼料

AIN-76精製飼料中に粒度の異なる大麦若葉末を10%となるように調製した。なお、大麦若葉末無添加飼料群は、食物繊維量を調整するためセルロースが5%含まれるAIN-76精製飼料を用いた。

湿糞便重量および糞便中IgA量の測定

試験2日目、7日目および14日目に前日から24時間の糞便を回収し、湿糞便重量を測定した。また、試験14日目に回収した糞便を室温にて乾燥させ、乾燥後の糞便を粉砕し、10mgの糞便に対して100μLのPBS(-)を添加、ボルテックス後に遠心分離(4℃、20400g、10min)して上清を回収し、IgA測定キット(Mouse IgA ELISA Kit ; Bethyl Laboratories, Inc.)にて糞便中IgA量を測定した。

盲腸内容物pHの測定

試験14日目に回収した盲腸内容物を純水にて適宜希釈し、pHメーターにて測定した。

リアルタイムPCR

試験14日目に回収、乾燥後の糞便からDNA抽出キット(QIAamp DNA Stool Mini Kit ; QIAGEN)を用いてDNAを抽出した。抽出したDNAを用いてリアルタイムPCR法により、腸内細菌叢を解析した。使用したプライマーの配列を表1に記す。

大麦若葉末の粒度の違いが整腸、腸管免疫機能 および腸内細菌叢に及ぼす影響について①

結果

湿糞便重量

回収した湿糞便の重量を図1に示す。大麦若葉末を摂取することでコントロール群と比較して試験2日目以降から有意に湿糞便重量が増加した。一方で、粒度の違いによる湿糞便重量に差はみられなかった。

大麦若葉末の粒度の違いが整腸、腸管免疫機能 および腸内細菌叢に及ぼす影響について②

盲腸内容物pH

試験14日目のマウス盲腸内容物pHを図2に示す。大麦若葉末を摂取することでコントロール群と比較して有意に盲腸内容物のpHが低下した。

大麦若葉末の粒度の違いが整腸、腸管免疫機能 および腸内細菌叢に及ぼす影響について③

糞便中IgA量

試験14日目の糞便中IgA量を図3に示す。大麦若葉末を摂取することでコントロール群と比較して有意に糞便中IgA量が増加した。また粒度細群では、粒度粗群と比較しても有意に増加した。

大麦若葉末の粒度の違いが整腸、腸管免疫機能 および腸内細菌叢に及ぼす影響について④

腸内細菌叢解析

試験14日目に回収した糞便からのリアルタイムPCRによる腸内細菌の16S rRNA遺伝子の相対発現量を図4に示す。その結果、全群において総細菌数に影響を与えることなく、粒度粗群ではFirmicutes門の減少が認められた。また、コントロール群と比較してPrevotella属が粒度細群および粒度粗群で有意に増加し、さらに粒度細群では、粒度粗群と比較しても有意な増加が認められた。

大麦若葉末の粒度の違いが整腸、腸管免疫機能 および腸内細菌叢に及ぼす影響について⑤

考察

大麦若葉末は食物繊維などに富み、様々な機能性を有することが知られている15)。大麦若葉末の粒度は、香りや食感に影響を与え、粒度が細かいほど香りも良く、舌や喉に与えるざらつき感も軽減することができる16)。これは大麦若葉末だけに当てはまるものではなく、他の青汁素材にもいえるものである16)。我々はこれまで、青汁素材の嗜好性を追求してきたが、今回は粒度と機能性との関連について検討した。

粒度の異なる大麦若葉末を10%添加し、14日間マウスに摂取させた。その結果、大麦若葉末を摂取した群で湿糞便重量の増加、盲腸内容物pHの低下、糞便中IgA量の増加および腸内細菌叢の変化が認められた。さらに粒度の細かい方が、糞便中IgA量の増加および腸内細菌叢の変化が顕著であったため、大麦若葉末の微粉砕加工は、腸管免疫賦活化および腸内細菌叢の改善において優位性があることが確認できた。

しかし、湿糞便重量においては粒度による差は確認できなかった。大麦若葉末摂取による湿糞便重量の増加は、抱水性が高い大麦若葉由来の不溶性食物繊維による嵩増し効果が影響していると考えられる17)。ただ抱水性にのみ着目すると、粒度の粗い方が有利である。例えば小麦ふすまを用いた試験では、粒度の粗い方が糞便重量が多く、抱水性が高いことが示されている18)。本試験では、湿糞便重量において粒度による差がなかったことから、粒度の細かい大麦若葉末の便通改善作用は、抱水性とは別の因子も影響を及ぼすことが示唆された。

その一方で、大麦若葉末の摂取による盲腸内容物pHの低下と糞便中IgA量の増加は、腸内細菌の資化作用の影響が大きいことが考えられた。食物繊維は腸内細菌によって短鎖脂肪酸に資化されることが知られており、さらに粒度の細かい食物繊維は表面積が増えることで腸内細菌と接する面積が広がり、粒度の粗いものよりも資化されやすいと考えられている19)。また、短鎖脂肪酸はIgAを増加させることが報告されており20)、糞便中IgA量の変化は腸管免疫賦活化の指標だけでなく、腸内細菌の資化作用を見る上でも重要な情報となる。本試験では粒度の違いによる盲腸内容物pHの差は確認できなかったものの、粒度の細かい大麦若葉末の摂取により粒度の粗いものと比較して糞便中IgA量が増加した。そのため、微粉砕加工によって資化作用が強まる可能性が示された。今後盲腸内容物pHだけでなく、盲腸内容物の短鎖脂肪酸の組成比についての確認も進めていく。

本試験では大麦若葉末の摂取により、腸内細菌叢にも影響を及ぼした。その中でもPrevotella属の増加はコントロール群と比較して数千倍と顕著なものであり、大麦若葉末の粒度の細かい方がこの増加が大きいことがわかった。便秘になると腸内細菌叢が乱れることが知られているが、便秘患者は非便秘患者と比較してPrevotella属が10倍以上減少する21)。さらにPrevotella属は、酢酸や乳酸などの短鎖脂肪酸を産生することから22)、先に述べた粒度の細かい大麦若葉末摂取による糞便中IgA量の増加は、Prevotella属が産生した短鎖脂肪酸も影響する可能性が考えられる。Prevotella属は整腸作用、腸管免疫賦活作用の両方に優れた腸内細菌であり、大麦若葉末が腸内細菌叢の乱れを改善する一因になることが考えられる。そのため、今後は大麦若葉末とPrevotella属、腸内の短鎖脂肪酸の関係性を解明していきたい。

我々は、微粉砕加工を施すことにより嗜好性に優れる青汁素材を提供してきたが、嗜好性だけでなく、機能性にも優れることを本試験にて確認した。

嗜好性と機能性を兼ね備えた青汁素材の開発を今後も追求していく。

参考文献

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