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葛花抽出物(葛の花エキス)の遺伝毒性に関する安全性評価

葛の花エキス™

神谷 智康 1),八尋 衣里奈 1),城戸 弥生 1),髙野 晃 1),鍔田 仁人 1),池口 主弥 1)
髙垣 欣也 1),石井 孝広 2),福田 隆之 3),小熊 義宏 3),金城 順英 4)
1)株式会社東洋新薬 開発本部 2)株式会社ボゾリサーチセンター 御殿場研究所
3)株式会社ボゾリサーチセンター 東京研究所 4)福岡大学 薬学部

応用薬理 vol.84 no.3/4, 53-58, 2013

ABSTRACT(概要)

Pueraria flower extract (PFE) is a hot water extract of the Kudzu flower (Pueraria thomsonii). In the present study, we conducted bacterial mutagenicity assay and chromosome aberration test in vitro and mice micronucleus test in vivo to investigate whether PFE has genotoxic effect or not. The bacterial reverse mutation assay was performed using several strains of Salmonella typhimurium and Escherichia coli. The number of revertant colonies did not exceed twice that obtained in the solvent control at the dose of 156 – 5000 μg/plate of PFE either in the presence or absence of S9 mix. The chromosome aberration test was examined using cultured Chinese hamster cells. In this system, both with and without metabolic activation, the increases of incidence of structural aberrant cells were observed. In the mice bone-marrow micronucleus test, PFE did not significantly increase the frequency of micronucleated polychromatic erythrocytes (MNPCE) when PFE was administered orally twice at the dose of 500 – 2000 mg/kg/day. Therefore, PFE had clastogenicity in vitro, but showed no bacterial mutation. Additionally, PFE did not show any clastogenic effect in mice micronucleus test even at the dose of 2000 mg/kg/day. Namely, it is suggested that clastogenic potential of PFE is not induced in vivo.

Keywords: Genetoxic evaluation / Kudzu flower extract / Safety evaluation

緒言

葛の花エキスは,マメ科クズ属の半低木性のつる性多年生植物である「葛 (Pueraria thomsonii)」の乾燥花部の熱水抽出物である.葛の花は, 9月から11月にかけて開花するため,秋の七草の一つに挙げられている.なお,葛の花は「葛花(かっか)」とも呼ばれ,中国では約1000年前からアルコール中毒対策として使用されてきた歴史を有する(Keung et al, 1998: Yamazaki et al, 2002: Tsuchihashi et al, 2009: 新甫ら, 1990).また,中国のみならず日本においても古くから同様に利用されてきた歴史を有する(Niiho et al, 2010).特に,植物の花をお茶として飲用する習慣がある中国においては,葛花もその一つとして飲用されており(Chen et al, 2012: 新甫ら, 2012),韓国においても葛花から抽出したお茶が飲用されている(金, 2012).

近年になり,葛の花の消酒作用(Yamazaki et al, 2002),肝保護作用(新甫ら, 1990: Kinjo et al, 1999),脂質代謝改善作用 (Kubo et al, 2012: 新甫ら, 1990),抗肥満作用及び脂肪肝抑制作用(Kamiya et al, 2012a)などの機能性に関する報告がなされるようになった.
特に,抗肥満作用については,消費エネルギー量を増加させる作用を有することや(Kamiya et al, 2012b),軽度肥満者を用いた臨床試験の結果,1日あたり300 mgの葛の花エキスを摂取することで腹部脂肪面積を低減させることが報告されており(Kamiya et al, 2011: Kamiya et al, 2012c),このような効果が期待され,近年,わが国において葛の花エキスを用いた機能性食品が利用されるようになった.

以上のように,葛花は古くから食されてきた歴史を有し,また現代でも食されているものであるが,その遺伝毒性の有無に関する報告は見当たらない.そこで,本研究では,葛花の最も代表的な利用方法である,お茶としての利用を想定し,葛花の熱水抽出物である葛の花エキスの遺伝毒性の有無を評価することを目的として,「医薬品の遺伝毒性試験に関するガイドラインについて」(平成11年11月1日付医薬審第1604号)に従い,細菌を用いる復帰突然変異試験(in vitro試験),ほ乳類細胞を用いる染色体異常試験(in vitro試験),げっ歯類を用いる小核試験(in vivo試験)を行った.

方法

被験物質

被験物質は,葛の花エキス(株式会社太田胃散製) を用いた.葛の花エキスの原料である乾燥葛花は,中国産のクズ(Pueraria thomsonii)を使用した.葛の花エキスのイソフラボン含量は,「食品中の大豆イソフラボンアグリコン(アグリコン当量) の試験方法」(大豆イソフラボンを含む特定保健用食品等の取り扱いに関する指針について(別紙),食安発第0823001号,平成18年8月23日)を準用し定量した結果,tectorigenin-7-O-xylosylglucoside(8.5%),tectoridin(4.6%), 6-hydroxygenistein-6,7-di-O-glucoside(3.4%),tectorigenin (0.9%),genistin(0.3%),glycitin(0.2%),glycitein(0.1%),genistein(0.1%)であった.

細菌を用いた復帰突然変異試験(in vitro試験)

細菌を用いて,代謝活性化しない場合及び代謝活性化する場合の2系列について復帰突然変異試験を行った.試験菌株は,フレームシフト型変異と塩基対置換型変異を検出できるようにSalmonella typhimurium TA100(国立衛生試験所変異原性部(現:国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター変異遺伝部)より入手),TA1535,TA98,TA1537(U.C. Berkeley, Ames教授より入手), Escherichia coli WP2 uvrA(東京大学医科学研究所癌生物学研究部より入手) を用いた.

被験物質は注射用水(和光純薬工業株式会社製) に溶解し段階希釈してそれぞれ試験に供した.陰性対照として注射用水を,陽性対照として2-(2-Furyl)-3-(5-nitro-2-furyl) acryl-amide(AF-2)(光製薬株式会社製),アジ化ナトリウム(NaN3) (和光純薬工業株式会社製),2-Methoxy-6-chloro-9- [3-(2-chloroethyl)aminopropylami-no]acridine・2HCl (ICR-191) (Polysciences Inc.製),2-Aminoanthracene (2AA) (和光純薬工業株式会社製) 及びベンゾ[a]ピレン(B [a] P)(Sigma-Aldrich Co.製) を用いた.

被験物質溶液,陰性対照溶液あるいは陽性対照溶液各0.1 mLに,代謝活性化しない場合は0.1M ナトリウム-リン酸緩衝液(pH7.4) 0.5 mLを,代謝活性化する場合はS9mix(オリエンタル酵母工業株式会社製)0.5 mLを加え,さらに37℃で8時間前培養した各菌懸濁液を0.1 mL加えた.37℃で20分間振盪培養しながらプレインキュベーションし,トップアガー(S.typhimurium TA株を用いる場合はビオチン及びヒスチジン,E. coli株を用いる場合はトリプトファンを含む) 2.0 mLを加えた後に,最少グルコース寒天平板培地 (オリエンタル酵母工業株式会社製)(各処理群あたり2プレート) に重層した.さらに,37℃で48時間培養し,出現した復帰変異コロニー数を自動コロニーカウンター CA-7Ⅱ(システム・サイエンス株式会社製)を用いて計測した.突然変異誘発能の有無については,被験物質処理群の復帰変異コロニー数が自然復帰変異コロニー数に対して顕著な増加が認められた場合(陰性対照群の2倍以上でかつ用量依存性のある場合)に陽性と判定することとした.

用量設定においては「医薬品の遺伝毒性試験に関するガイドラインについて」 (平成11年11月1日付医薬審第1604号)で定める5000 μg/plateを最高用量とし,公比2で希釈した計6用量(5000,2500,1250,625,313及び156 μg/plate) を設定した.

なお,本試験は株式会社ビー・エム・エル(埼玉県)で実施された.

ほ乳類培養細胞を用いた染色体異常試験(in vitro試験)

チャイニーズハムスター肺由来CHL/IU細胞を用いて,短時間処理法の代謝活性化しない場合及び代謝活性化する場合の2系列について染色体異常試験を行った.CHL/IU細胞は国立衛生試験所変異原性部(現:国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター変異遺伝部)より入手し,培養液は10%仔牛血清(HyClone Laboratories Inc.製)を含むイーグルMEM(GIBCO Inc.製)を用いた.

被験物質は生理食塩液(光製薬株式会社製)に溶解し段階希釈してそれぞれ試験に供した.陰性対照として生理食塩液を,陽性対照として,代謝活性化しない場合はマイトマイシンC(協和醗酵工業株式会社製)を,代謝活性化する場合はベンゾ[a]ピレン(東京化成工業株式会社製)を用いた.

培養液5.0 mLを入れたシャーレ(各処理群あたり染色体標本用2枚,細胞増殖率用2枚)に2×104個のCHL/IU細胞を播種し,3日間前培養を行った.代謝活性化しない場合は,細胞培養後に,各シャーレに各用量の被験物質溶液あるいは陰性対照溶液もしくは陽性対照溶液(マイトマイシンC)を0.5 mLを加え,37℃で6時間培養後に培養液を交換し,さらに18時間培養した.代謝活性化する場合は,培養後,各シャーレから0.83 mLの培養液をぬきとり,0.83 mLのS9mix(S9はオリエンタル酵母工業株式会社製)を加え,各シャーレに各用量の被験物質溶液(0.5 mL)あるいは陰性対照溶液(0.5 mL)もしくは陽性対照溶液(ベンゾ[a]ピレン)(25 μL)を加え,37℃で6時間培養後に培養液を交換し,さらに18時間培養した.

染色体標本用シャーレには,培養終了2時間前にコルセミド(GIBCO Inc.製)を最終濃度0.2 μg/mLになるように添加した.培養終了後,0.25%トリプシン溶液 2 mLを加えて細胞を剥離し,回収した.低張処理後に冷却固定液(冷却メタノール:酢酸=3:1)で細胞を固定後,スライドグラス上に滴下し,空気乾燥後,1.7%ギムザ液で染色した.顕微鏡下で,各処理群あたり200個の分裂中期像を観察し,染色体構造異常及び数的異常を調べ,異常細胞の出現頻度を算出した.染色体異常誘発能の有無については,5%未満を陰性(-),5%以上10%未満を疑陽性(±),10%以上を陽性(+)と判定することとした.また,細胞増殖率用シャーレは,培養終了後,生理食塩液で細胞を洗浄して10%ホルマリン溶液で固定し,0.1%クリスタルバイオレット溶液で染色した.単層培養細胞密度計(モノセレータ,オリンパス光学工業株式会社製)を用いて陰性対照群の値を100%として細胞増殖率を測定した.

用量設定試験として被験物質の処理濃度を0.039-5.0 mg/mL(公比2で希釈)に設定し,細胞増殖抑制試験を実施した結果,50%細胞増殖抑制用量は代謝活性化しない場合で2.1 mg/mL,代謝活性化する場合で5.0 mg/mL以上であったことから,染色体異常試験の用量は代謝活性化しない場合で最高用量を2.5 mg/mLとし,等差0.4 mg/mLで希釈した計4用量(2.5,2.1,1.7,1.3 mg/mL),代謝活性化する場合では最高用量を5.0 mg/mLとし,公比2で希釈した計3用量(5.0,2.5,1.25 mg/mL)を設定した.

なお,本試験は株式会社ビー・エム・エル(埼玉県)で実施された.

げっ歯類を用いた小核試験(in vivo試験)

マウスを用いて骨髄細胞における小核試験を行った.マウスは7週齢ICR系SPF雄性マウス(日本チャールス・リバー株式会社より購入)を1週間馴化させたものを用いた.プラスチックケージで個別飼育し,温度22 – 24℃,相対湿度48 – 57%,照明1日12時間の飼育室で,固形飼料CRF-1(オリエンタル酵母工業株式会社製)及び飲料水を自由摂取させた.

被験物質は注射用水(株式会社大塚製薬工場製)に溶解し各用量に調整してそれぞれ試験に供した.陰性対照として注射用水を,陽性対照としてマイトマイシンC(協和醗酵工業株式会社製)を用いた.マウスは各群5匹とし,投与量は「医薬品の遺伝毒性試験に関するガイドラインについて」 (平成11年11月1日付医薬審第1604号)で定める2000 mg/kg/dayを最高用量とし,公比2で希釈した計3用量(2000,1000,500 mg/kg/day)を設定した.被験物質溶液及び陰性対照溶液はマウスに約24時間間隔で2回経口投与し,陽性対照溶液 は1回腹腔内投与(1 mg/kg/day)した.

最終投与後約24時間にマウスから大腿骨を摘出し,骨髄細胞を回収した.スライドグラス上に細胞懸濁液を塗抹し風乾させた後,メタノールで固定した.40 μg/mLアクリジンオレンジ水溶液を少量滴下したカバーグラスにスライドグラスを載せ蛍光顕微鏡で観察し,1個体あたり2000個の幼若赤血球(PCE : polychromatic erythrocytes)における小核を有する幼若赤血球(MNPCE : micronucleated PCE)数と全赤血球200個中のPCE数を計数し,それぞれの出現頻度を求めた.MNPCEの出現頻度に対する有意性の判定は,陰性対照群と各被験物質投与群を比較し,2項分布に基づくKastenbaum&Bowmanの検定(有意水準:片側5%)ならびにCochran Armitageの傾向検定(有意水準:両側1%及び5%)を実施した.さらに,PCEの出現頻度については,陰性対照群と各被験物質投与群との間でBartlettの検定(有意水準:両側1%)を行い等分散性を調べ,分散が均一であったためDunnettの検定(有意水準:両側1%及び5%)を行った.また,陽性対照群においては,陰性対照群との間で対応のないt検定(有意水準:両側5%)を実施した.

なお,本試験は,株式会社ボゾリサーチセンター(静岡県)において,「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年10月1日法律第105号,平成11年12月22日改正及び平成17年6月22日一部改正)を遵守し実施された.

結果

細菌を用いた復帰突然変異試験

葛の花エキス156 – 5000 μg/plateにおいて,復帰変異コロニー数は代謝活性化の有無にかかわらず,また塩基対置換型,フレームシフト型のいずれの菌株においても,陰性対照群と比較して2倍以上には増加せず,用量反応性も認められなかった(Table 1).また,生育阻害及び葛の花エキスの沈殿も代謝活性化の有無にかかわらず認められなかった.一方,各試験菌株の陽性対照群の復帰変異コロニー数は,陰性対照群と比較して顕著な増加が認められた.

以上の結果より,葛の花エキスはS. typhimurium及びE.coilに対して突然変異誘発能を有さないと判断された.

 

葛花抽出物(葛の花エキス)の遺伝毒性に関する安全性評価①

ほ乳類培養細胞を用いた染色体異常試験

葛の花エキス処理群における染色体構造異常を有する細胞の出現頻度は,代謝活性化しない場合では1.3 mg/mLで8.5% と疑陽性を,1.7,2.1及び2.5 mg/mLで22.0,26.0及び28.0% とそれぞれ陽性を示した.同様に,代謝活性化する場合においても1.25 及び2.5 mg/mLで8.5及び9.0%と疑陽性を,5.0 mg/mLで13.0%と陽性を示した(Table 2).葛の花エキス処理により,代謝活性化の有無によらず用量の増加に伴う構造異常の総異常数の増加が認められたことから,総合的に陽性と判定した.また,染色体構造異常のD20値(観察細胞の20%に何らかの異常が見られる用量)(祖父尼, 1998)は,代謝活性化しない場合で1.8 mg/mL,代謝活性化する場合で7.7 mg/mLと算出された.なお,数的異常細胞を有する細胞の出現頻度は,代謝活性化の有無にかかわらずいずれの用量においても5%未満であったことから陰性と判定された.

陰性対照群の染色体構造異常及び染色体数的異常の出現率は5%未満であり,陽性対照群の構造異常細胞の出現頻度は,代謝活性化しない場合で44.0%(マイトマイシンC 0.10 μg/mL),代謝活性化する場合で19.5%(ベンゾ[a]ピレン7.0 μg/mL)であった.したがって,試験は適切に実施されたと考えられた.

以上の結果より,葛の花エキスはCHL/IU細胞に対する染色体構造異常誘発性があるものと判断された.

葛花抽出物(葛の花エキス)の遺伝毒性に関する安全性評価②

げっ歯類を用いた小核試験

葛の花エキス投与群ではMNPCEの出現頻度において,いずれの用量(500 – 2000 mg/kg/day)においても陰性対照群と比較して有意な変化を示さず,用量依存的な変化も認められなかった(Table 3).一方,陽性対照群ではMNPCEの出現頻度が陰性対照群と比較して有意に増加した.

また,葛の花エキス投与群のPCEの出現頻度は,陰性対照群と比較して有意な変化を示さなかった(Table 3).

以上の結果より,葛の花エキスはマウスの骨髄において,染色体異常誘発能を有さないと判断された.

葛花抽出物(葛の花エキス)の遺伝毒性に関する安全性評価③

考察

本試験では,葛の花エキスの遺伝毒性の有無を評価することを目的として,in vitro試験の細菌を用いた復帰突然変異試験とほ乳類細胞を用いた染色体異常試験,in vivo試験のげっ歯類を用いた小核試験を行った.その結果,葛の花エキスは,CHL/IU細胞を用いた染色体異常試験では代謝活性化の有無によらず陽性を示したが,S. typhimurium及びE.coilを用いた復帰突然変異試験では陰性,染色体異常を指標とするマウスを用いた小核試験では陰性を示した.

染色体構造異常を示した葛の花エキスの染色体構造異常のD20値は,代謝活性化しない場合で1.8 mg/mL,代謝活性化する場合で7.7 mg/mLであった.D20値は分裂中期細胞の20%の細胞に何らかの異常を誘発するのに必要な濃度であり,化学物質の構造異常誘発能の強度を相対的に比較することが出来る.特に,「新規化学物質の判定及び監視化学物質への該当性の判定等に係る試験方法及び判定基準(平成23年4月22 日)」ではD20値が0.01 mg/mL以下を示す場合,強い誘発能を有すると評価されるが,本試験において得られたD20値は本基準よりも高い濃度にあった.また,我々が日常的に摂取しているニンニクオイル,インスタントコーヒー(フリーズドライ品),醤油のD20値はそれぞれ0.010 mg/mL,0.63 mg/mL,8.0 mg/mLであり,同様に食品に含まれる成分であるクルクミン,ケルセチン,カテキン,カフェインのD20値はそれぞれ0.023 mg/mL,0.033 mg/mL,0.14 mg/mL,0.43 mg/mLであることが報告されている(祖父尼, 1998).葛の花エキスのD20値はこれらの値と比較して高い値であったことから,既存物質と比較しても弱い染色体構造異常誘発作用であると考えられた.

次に,我々は生体における染色体異常誘発性を検討するため,同様に染色体異常を検出することが出来るマウス骨髄のin vivo小核試験を実施した.その結果,「医薬品の遺伝毒性試験に関するガイドラインについて」(平成11年11月1日付医薬審第1604号)に従い,最大投与容量である2000 mg/kg/dayまで実施された小核試験では陰性であった.「添加物に関する食品健康影響評価指針」(食品安全委員会, 2010)によると,ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験で陽性であっても,高用量まで適切に行われたげっ歯類を用いる小核試験で陰性であれば,生体内における遺伝毒性は陰性と判断することができるとされている.したがって,葛の花エキスの生体内における遺伝毒性誘発能はない,もしくは非常に弱いものと考えられる.

細菌を用いた復帰突然変異試験における陽性物質はDNA反応性物質であることが示唆される一方,in vitro染色体異常試験で陽性を示す物質は培養細胞に特異的な非DNA反応性の物質である可能性があると考えられる.培養細胞の試験では,種々の培養環境の変化により,生体では起こり得ない結果をもたらすことや偽陽性の確率も高いことが報告されている.葛の花エキスは,in vivo小核試験において陰性であったことを考慮すると,本試験で認められたin vitro染色体異常陽性結果は非生理的影響であったことも否定は出来ない.

以上の遺伝毒性試験において,染色体異常試験では,代謝活性化の有無によらず陽性を示したが,比較的高用量域で生じていること,染色体異常を指標とするマウスを用いた小核試験の結果が陰性であること,ならびに細菌を用いた復帰突然変異試験においても陰性であったことから,生体にとって問題となるものではないと考えられた.

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