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松樹皮抽出物の育毛活性作用とそのメカニズム

フラバンジェノール®

鍔田仁人
株式会社東洋新薬

FRAGRANCE JOURNAL vol.41 no.11, 39-43, 2013

ABSTRACT(概要)

Abstract:
The pine bark extract, called FLAVANGENOL®, is obtained from Pinus maritima growing around the coastal region of southwest France, and used as a functional food ingredient. We examined the topical action against hair growth of FVG in C3H mice, and the mechanisms were evaluated by using human dermal papilla cells and clinical study. As a result, FVG and oligomeric proanthocyanidin included in FVG showed the effect on hair growth. FVG promoted mRNA expression of hepatocyte growth factor (HGF) in human dermal papilla cells. In clinical study, FVG improved microcirculation by topical use. Additionally, in the combined use of oral and topical of FVG showed better effect on hair growth than topical use only. FLAVANGENOL® has various benefits not only for functional foods, but also for cosmetic use.

Key words:
pine bark extract, oligomeric proanthocyanidin, hepatocyte growth factor (HGF), microcir

はじめに

松樹皮抽出物フラパンジェノール®(FVG)は,フランス南西部Landes地方の北大西洋に面する海岸付近に植林された海岸松(フランス海岸松;図1)の樹皮から抽出される機能性素材である。フランス海岸松は日本の松より樹皮が厚く,カテキンやエピカテキンが縮合されたプロシアニジンオリゴマー,すなわちオリゴメリック・プロアントシアニジン(OPC)が含まれるのが特徴である。OPCは抗酸化作用を中心に様々な機能性を発揮することで知られている。なかでもFVGの抗酸化作用はブドウ種子など,ほかのOPC含有植物の抽出物と比較しても高いことが明らかとなっている1)

フランス海岸松樹皮抽出物は,そもそも経口医薬品として用いられてきた。フランスではOTC医薬品として1968年より血管保護剤として長年利用されている。適応症として,静脈血管及びリンパ管の機能不全に関連した症状・主に冷え症及び浮腫など,皮膚毛細血管の脆弱性からくる症状,眼科学分野において網膜などの循環障害に対する医療処置との併用,痔核が挙げられている。一方で安全性・禁忌事項に関しては特筆される懸念もなく用いられていることから,著者らは,日本での健康食品としての開発を開始,様々な薬理評価を行った。その結果, FVGの経口摂取による血流改善作用2),美白作用3),紫外線による皮膚障害改善作用4), 抗炎症作用5)など様々な効果を確認してきた。

一方,古来,生薬を中心とした東洋医学では植物療法として,植物エキスを内服のみならず,塗布での用途も多く存在する。また,近年増加している「内外美容」も同様の概念からきていると思われる。そのため,健康食品としての開発してきたれFVGは,飲んでも,皮膚に塗っても健康上,または美容上効果が期待できる素材として注目されている。今回は,これまで検討してきたFVGの育毛剤としての評価を本稿にて紹介する。

松樹皮抽出物の育毛活性作用とそのメカニズム①

松樹皮抽出物フラパンジェノール®の育毛活性

FVGの育毛剤の開発として,一般的なスクリーニング試験であるC3Hマウスを用いた育毛評価を行った。被験試料塗布前日にC3Hマウス背部の毛をバリカンで刈りその後シェーバーで、注意深く刺激を与えないよう丁寧に剃り,試験に供した。被験試料としてFVG及びFVGから精製したプロシアニジン画分(収量51.15 %)を用いた。これらを50%エタノールにて溶解させ, FVGは0.5,5%溶液,プロシアニジン画分は2.5%溶液に調製して1日1回被験試料200 μLを14日間背部に塗布し,毛成長の度合いを評価した。コントロールとして50%エタノールを用いた。1群8匹とし,試験開始14日目にはマウス背部をデジカルカメラで撮影し画像解析ソフトを用いて育毛面積の割合を算出した。また,コントロールとFVGを塗布したマウスは試験最終日に皮膚を摘出し10 %ホルマリンで固定してヘマトキシリン・エオシン染色を行い毛包の状態を観察した。

その結果,画像解析により育毛面積の割合を算出したところ, 14日目においてコントロール群と比較して0.5%, 5 %FVG群ではそれぞれ育毛面積が約1.3, 1.8倍であり,2.5%プロシアニジン画分群は約1.5倍であった(図2,図3)。これらから, FVGは育毛活性作用を有し,少なくともOPCが関与していることが考えられた。また,コントロール群では毛包が休止期にあるのに対し0.5 %FVG群では成長期( Ⅱ~Ⅲ)に, 5%FVG群では成長期(Ⅳ)にまで移行していることが認められた(図4)。このことから, FVGの作用として,休止期毛包を成長期へ誘導することによる育毛活性作用が考えられた。

松樹皮抽出物の育毛活性作用とそのメカニズム②
松樹皮抽出物の育毛活性作用とそのメカニズム③
松樹皮抽出物の育毛活性作用とそのメカニズム④

育毛活性のメカニズムの検討

成長因子に関わる影響

FVGの育毛活性作用のメカニズムを解明するため,まずはヒト毛乳頭細胞(白人40歳女性由来)を, FVGを含有する培地もしくは含有しない培地の各々で培養し,抽出したmRNAを用いてマイクロアレイにて遺伝子発現量の網羅的解析を行った。発現した遺伝子の中から育毛活性作用に関連があると報告されている遺伝子を抽出した結果,細胞成長因子の1つであるHGFの発現量が約2.1倍となっていた。

毛の成長・分化には,ホルモン,細胞成長因子,ビタミンなどの様々な物質が影響を及ぼすが,細胞成長因子は特に毛乳頭や外毛根鞘,内毛根鞘などの細胞で産生され,毛周期の調節に作用する。例えば,毛の成長促進にはKGF,IGF-1,HGFが,毛成長抑制には TGF-βが知られている 6) 7)。その中でHGFは休止期から成長期への移行を促し,また,成長期から退行期への移行を遅延させるなど,成長期の維持に関与することが知られている。さらに, HGFを過剰発現するトランスジェニックマウスでは毛球数が増加することも観察されている 8)。そのため,マイクロアレイで発現の上昇が認められたHGFについてヒト毛乳頭細胞を用いたRT-PCR法による遺伝子発現の定量解析を行った。評価の結果, HGFの遺伝子発現量はFVGに用量依存的な上昇を示し,FVGがHGFの遺伝子発現に影響を与えることが確認された(図5)。

これまでブドウ種子やリンゴ果皮,大麦に含まれるOPCによる育毛活性作用,特にOPCの中でも2量体のプロシアニジンB2及びプロシアニジンB3に強い育毛活性作用があることが報告されている9) 10)。さらにプロシアニジンB2やプロシアニジンB3はTGF-βによるアポトーシス誘導を抑えることや,過剰発現の場合に脱毛に影響を及ぼすプロテインキナーゼC (PKC)を阻害することにより,育毛活性作用があることを示唆している11) 12)。一方, FVGにはプロシアニジンBlが多く含まれる13)。また松樹皮抽出物の塗布により,プロシアニジンBlが経皮吸収されることも報告されている14)

これらのことから, FVGの育毛活性作用にOPCが複合的に作用していることが考えられた。これらは,今後検討していく次第である。

松樹皮抽出物の育毛活性作用とそのメカニズム⑤

血流改善作用

脱毛症と微小循環の改善は古くから関連づけて考えられている15)。松樹皮抽出物は古くから血管保護剤として使われており,血流を改善する作用も報告されていることから,外用での微小循環改善作用についても検討した。

健常成人10名(28.9± 4.1歳,男性6名,女性4名)を対象に,クロス・オーバー法で試験を実施した。試験は日を変えて3回実施し,それぞれの試験日で,別々の試験品(FVG水溶液,精製水,市販の入浴剤)を用いた。被験者の片手に冷水負荷を行った後(0分後)に,試験品使用前の血流量の測定を行った。その後,試験品を1分間外用し, 30, 60, 90, 120分後に血流量の測定を行った。その結果,FVG水溶液使用時に,使用前に対して60分後, 90分後, 120分後で有意な血流量の上昇が認められた(図6)。また, 3試験品の使用時の比較において, FVG水溶液使用時は,精製水使用時に比べて60分後, 90分後,120分後において有意に血流量が高いことが認められた。以上の結果より, FVGは外用での使用においても末梢血流改善作用があることが示唆された。FVGは血管内皮の弛緩作用が確認されており,この作用は内皮型一酸化窒素(eNOS)のリン酸化が影響することが示唆されている16)。また,赤血球変形能の改善も確認されており2)、本試験での外用による血流改善の作用のメカニズムもこれらの作用が一因になることが考えられた。

松樹皮抽出物の育毛活性作用とそのメカニズム⑥

内用と外用による併用効果への期待

松樹皮抽出物は経口医薬品として用いられてきた経緯や経口摂取での血流改善作用も確認されていることから,外用(塗布)と同時に内用することによって,さらに優れた育毛活性作用が発揮されるのではないかと考え,前述と同様の試験を検討した。被験試料については,塗布用として,0.05 %FVG/50 %エタノール溶液を,また経口投与として, 1%FVG水溶液を調製した。塗布は,1日1回0.2mLを21日間背部に行い,経口投与は21日間の自由摂取により行った。育毛評価は,表に示した育毛状態の6段階スコアにて評価を行った。試験に供した群は, 50%エタノール塗布+蒸留水経口摂取(コントロール)群, 0.05%FVG溶液塗布+蒸留水経口摂取(塗布)群, 50%エタノール塗布+FVG経口摂取(経口摂取)群,及び0.05%FVG 溶液塗布+ FVG経口摂取(併用摂取)群の計4群を設けた。その結果,コントロール群に比べて塗布群,経口摂取群共に育毛効果を示し,併用摂取群については,さらに強い育毛効果が認められた(図7,図8)。つまり, FVGの塗布と同時に経口摂取させることによって,さらに優れた育毛効果が発揮されることが明らかとなった。

 

松樹皮抽出物の育毛活性作用とそのメカニズム⑦
松樹皮抽出物の育毛活性作用とそのメカニズム⑧
松樹皮抽出物の育毛活性作用とそのメカニズム⑨

おわりに

最近では,化粧品による気になる肌へのケア(外からの美容)に加え,健康食品やサプリメントによる体の内側からのケア(内からの美容)を組み合わせることによる「内外美容」という考え方が生まれている。

この流れを受け,様々なメーカーより同一ブランドに内用と外用の美容商品を用意して「内外美容」を謳った商品が販売されており,内外美容商品の売り上げはここ数年着実に伸張し,育毛の分野においても同様の現象が今後益々加速すると予想される。化粧品素材の開発と健康食品の開発はアプローチの仕方が違い,化粧品素材として利用されているものの中には食品としては用いることができず,薬と区分されているものも多く存在する。そのような現状の中,内用と外用のアプローチが可能な松樹皮抽出物フラバンジェノール®は内外美容を実現するために有用な機能性素材であると考える。

参考文献

1)森 貞夫 他, New Food Industry, 46, 1~7 (2004)
2)Y. Ohnishi et al., J. Jpn. Soc. Biorheol., 19, 24~33 (2005)
3)M. Furumura et al., Clin. Interv. Aging, 7, 275~286 (2012)
4)Y. Kimura et al., Photochem. Photobiol., 86, 955~963 (2010)
5)M. Tsubata et al., J. Nutr. Sci. Vitaminol., 57 (3) 251~257 (2011)
6)S. Itami et al., Biochem, Biophys. Res., 212, 988~994 (1995)
7)S. Inui et al., FASEB J., 16, 1967~1969 (2002)
8)G.Linder et al., FESEB J., 14, 319~332 (2000)
9) A. Kaminura et al., Exp. Dermatol., 11, 532~541 (2002)
10 ) T. Takahashi et al., J. Invest. Dermatol., 112, 310~316 (1999)
11 ) A. Kamimura et al., Skin Pharmacol. Physiol., 19, 259~265 (2006)
12 ) T. Takahashi et al., Skin Pharmacol. Appl. Skin Physiol., 13, 133~142 (2000)
13 ) T. Shimada et al., Eur. J. Pharmacol., 677, 147~153 (2012)
14 ) V. Sarikaki et al., J. Toxicol. Cutaneous Ocul. Toxicol., 23, 149~158 (2004)
15 ) Y.F. Mahé et al., J. Dermatol., 39, 576~584 (2000)
16 ) C.J. Kwak et al., J. Hypertens., 27, 92~101 (2009)

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