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機能性原料のリパーゼおよびαグルコシダーゼ阻害活性
―作用機序から見た機能性表示食品の安全性について―

ターミナリアベリリカ™

浜亮介, 山田(阪田)智子,森川琢海,尾上貴俊,神谷智康,髙垣欣也
株式会社東洋新薬

薬理と治療 vol.48 no.7, 1261-1265, 2020

ABSTRACT(概要)

Objectives
This study investigated the safety of foods by assessing lipase and α-glucosidase inhibition activities of Terminalia bellirica extract and 12 other functional ingredients.

Methods
Lipase and α-glucosidase inhibition activities of T. bellirica extract, oolong tea extract, chitosan, Gymnema sylvestre extract, guava leaves extract, black tea extract, salacia extract, onion skin extract, tea flower extract, du zhong leaves extract, pu-erh tea extract, green tea extract, and apple extract were determined. Orlistat or acarbose was used as the positive control.

Results
Each ingredient displayed lower inhibition activity than orlistat or acarbose. Out of the 13 ingredients, T. bellirica extract displayed the highest lipase inhibition activity in 13 ingredients. Chitosan and salacia extract inhibited α-glucosidase to the same level as T. bellirica extract.

Conclusions
It is unlikely that these ingredients cause side effects due to the inhibitory activities. However, the copious use of chitosan and salacia extract with T. bellirica extract may be a concern.

Key words
Terminalia bellirica extract, α-Glucosidase inhibition, Maltase inhibition, Lipase inhibition, IC50

はじめに

機能性を表示することができる食品は,これまで国が個別に許可した特定保健用食品と,国の規格基準に適合した栄養機能食品に限られていた。特定保健用食品は製品ごとに臨床試験を実施し国の審査を受ける必要があり,商品化までに費用と期間を要することが課題であった。一方,栄養機能食品は定められた表示以外の表示ができないことに課題があった。そこで,機能性をかりやすく表示した商品の選択肢を増やし,消費者が正しい情報を得て選択できるよう,平成27年4月に「機能性表示食品」制度が始まった1)

機能性表示食品制度の大きな特徴として,国の審査を経ずに事業者の責任において表示する制度であることのほかに,製品の臨床試験でなく機能性関与成分のシステマティックレビュー(研究レビュー)を科学的根拠として表示できることがあげられる。特定保健用食品では製品ごとに臨床試験が必要だったため,開発に莫大な費用がかかっていたが,機能性表示食品では製品ごとの臨床試験が不要となり,より低コストで商品を提供することが可能となった。

製品ごとの試験を不要とする考え方は安全性についても同様で,機能性関与成分の安全性について十分な評価がなされ,それを製品に適用できる合理的な理由を記載すればよいとされている2)。これにより,たとえばさまざまな素材を配合した既存の健康食品に機能性関与成分を添加し,機能性表示食品としてリニューアル発売することも容易になっている。ただし,機能性を有するさまざまな素材と機能性関与成分を組み合わせる場合,各素材の安全性をそれぞれ確認するだけでなく,機能性関与成分と組み合わせることで副作用が生じないか,作用機序の観点から考察することも重要であろう。機能性関与成分と同種の作用をもつ原料を多く配合した場合,各原料単体では副作用を生じなくても,組み合わせることで作用が増強され,副作用が生じる可能性が考えられる。たとえば,リパーゼやαグルコシダーゼの阻害活性は,ポリフェノール類をはじめとしたさまざまな成分で報告されている3,4)。リパーゼやαグルコシダーゼの阻害を作用機序とする機能性表示食品に不用意に機能性原料を複数配合すれば,リパーゼ阻害作用やαグルコシダーゼ阻害作用が重なる可能性は高まる。

リパーゼやαグルコシダーゼの阻害に起因する副作用としては,消化器症状があげられる。リパーゼ阻害薬であるオルリスタットは,脂肪の消化吸収抑制作用により便意促迫感や排便の増加,脂肪便などの消化器症状の発生率を有意に上昇させることが報告されている5)。また,αグルコシダーゼ阻害薬であるアカルボースは,鼓腸,下痢といった消化器症状の発生率を有意に上昇させることが報告されており6),αグルコシダーゼ阻害剤の消化器系副作用は糖質の消化吸収遅延作用により未消化の糖質が大腸まで到達し,腸内細菌による発酵を受け水素ガスなどを発生することによって起こると考えられている7)。オルリスタット,アカルボースともに副作用を避けるため低用量で投与することがあるように7, 8),強すぎる酵素阻害活性は消化器症状発生の要因になると考えられる。

リパーゼやαグルコシダーゼの阻害を作用機序とする機能性関与成分を含む原料の一つに,ターミナリアベリリカ抽出物がある。ターミナリアベリリカ抽出物は,インドやアジアの国々など熱帯地域に生息する広葉樹ターミナリアベリリカの果実の水抽出物である9)。ターミナリアベリリカ抽出物に含まれる没食子酸は,リパーゼやαグルコシダーゼの阻害作用により,食後の中性脂肪や血糖値の上昇を抑えることが報告されており10-12),機能性関与成分として利用されている。

そこで今回われわれは,機能性原料を組み合わせた場合に副作用が生じる可能性についての検討材料とするため,ターミナリアベリリカ抽出物をはじめとして,ポリフェノール類や,脂肪や糖の吸収抑制作用があるとされる成分の基原原料として選んだ13種類の原料について,リパーゼ・αグルコシダーゼ阻害活性を評価したので報告する。

材料と方法

実験材料

機能性成分規格またはエキス含量規格を有し,中性脂肪および/または血糖への作用が期待できる原料として,ターミナリアベリリカ抽出物((株)東洋新薬,没食子酸含量8.95%)のほか,ウーロン茶抽出物(丸善製薬(株)),キトサン((株)中原),ギムネマシルベスタエキス(バイオアクティブズジャパン(株)),グァバ葉エキス末(備前化成(株)),紅茶エキスパウダー(佐藤食品工業(株)),サラシアエキス((株)タカマ),タマネギ外皮エキス末(太邦(株)),茶花エキス((株)日本薬用食品研究所),杜仲葉エキス(小城製薬(株)),プアール茶抽出末(小城製薬(株)),緑茶エキス(佐藤食品工業(株)),リンゴ抽出物(フロンティアフーズ(株))を使用した。ポジティブコントロールとして,リパーゼ阻害活性測定ではオルリスタット(東京化成工業(株))を,αグルコシダーゼ阻害活性測定ではアカルボース(富士フイルム和光純薬(株))を使用した。

リパーゼ阻害活性測定方法

ブタ膵由来リパーゼ(Sigma-Aldrich)を,10mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて0.3mg/mLになるよう調製し,遠心分離(10,000rpm, 10分間,4℃)した上清を酵素液とした。膵リパーゼ活性は,リパーゼキットS(SBバイオサイエンス(株))を用いて測定した。
酵素反応は,被験物質溶液6μLに,発色液80μL, 5倍希釈した酵素液10μL,エステラーゼ阻害液1.6μLを添加し,遮光して30℃で5分間のプレインキュベートを行った後,基質溶液8μLを添加し,遮光して30℃で30分間のインキュベートを行った。反応後,反応停止液160μLを添加し,反応を停止させ,吸光度(412nm)を測定した。各被験物質溶液の膵リパーゼ阻害率(%)は以下の式より算出した。
膵リパーゼ阻害率(%)= (1-(A-C)/(B-D))×100
A: 被験物質の反応液の吸光度
B: 被験物質を添加していない反応液の吸光度
C: 被験物質の反応液(基質溶液を反応停止後に添加)の吸光度
D: 被験物質を添加していない反応液(基質溶液を反応停止後に添加)の吸光度

αグルコシダーゼ阻害活性測定方法

ラット腸管アセトン粉末(Sigma-Aldrich)100 mgに,56mMマレイン酸緩衝液(pH6.0)900 μLを加え,遠心分離(3000rpm,10分間, 4℃)した上清を酵素液とした。
反応には,18倍希釈した酵素液を用い,基質液は56mMマレイン酸緩衝液(pH6.0)に溶解した5mMマルトース溶液を用いた。
酵素反応は,被験物質溶液15μLに酵素液15 μLを加え, 37℃で5分間のプレインキュベートを行った後,基質液90μLを加え, 37℃で30分間のインキュベートを行った。反応後,98℃,2分間で処理し反応を停止させた。その後,グルコースCII-テストワコー(富士フィルム和光純薬(株))を用いて,酵素反応による吸光度(505nm)を測定した。各被験物質溶液のαグルコシダーゼ阻害率(%)は以下の式より算出した。
αグルコシダーゼ阻害率(%)= (1-(A-C)/(B-D))×100
A: 被験物質の反応液の吸光度
B: 被験物質を添加していない反応液の吸光度
C: 被験物質の反応液(98℃,2分間で処理し熱失活させた酵素液を使用)の吸光度
D: 被験物質を添加していない反応液(98℃, 2分間で処理し熱失活させた酵素液を使用)の吸光度

IC50および効力比の算出

得られた阻害率から阻害曲線を作成し,各原料のIC50を求めた。ターミナリアベリリカ抽出物のIC50とその他の原料のIC50の比を算出し,この逆数を求めターミナリアベリリカ抽出物を100%としたときの各原料の効果の比(効力比)を求めた。

結果および考察

本研究では,ターミナリアベリリカ抽出物をはじめとした,中性脂肪や血糖値対策に関連する機能性原料13種類のリパーゼ阻害活性およびαグルコシダーゼ阻害活性を評価した。
各原料のリパーゼIC50およびターミナリアベリリカ抽出物に対する効力比を表1に示した。リパーゼ阻害活性について,ターミナリアベリリカ抽出物と同等の効力を示すものはなく,ターミナリアベリリカ抽出物についても医薬品であるオルリスタットとくらべると阻害活性は低かった。また,臨床試験の有害事象発生率をみると,オルリスタットは通常用量の120mgで便意促迫感や排便の増加,脂肪便などの消化器症状の発生率に有意な上昇が認められているが5),ターミナリアベリリカ抽出物は健常者に対する食後中性脂肪上昇抑制作用が確認された用量200mg(没食子酸として20.8mg)の5倍量以上を1日2回4週間摂取させた臨床試験においても,そのような消化器症状の発生率の上昇は認められていない(未公表データ)。したがって,ターミナリアベリリカ抽出物とその他の機能性原料いずれかを組み合わせても,オルリスタットのようなリパーゼ阻害作用に起因する消化器症状が生じる可能性は低いと考えられた。
各原料のαグルコシダーゼIC50およびターミナリアベリリカ抽出物に対する効力比を表2に示した。αグルコシダーゼ阻害について,ターミナリアベリリカ抽出物とキトサンおよびサラシアエキスが同程度の効力を示したが,その他の原料の効力はターミナリアベリリカ抽出物の半分以下であった。また,比較的高い阻害活性を示したターミナリアベリリカ抽出物,キトサンおよびサラシアエキスについても,医薬品であるアカルボースとくらべると阻害活性は低かった。また,臨床試験の有害事象発生率をみると,アカルボースは通常用量の100mgで鼓腸,下痢といった消化器症状の発生率に有意な上昇が認められているが6),ターミナリアベリリカ抽出物は中性脂肪と同じく食後血糖値上昇抑制作用の有効量の5倍量以上を1日2回4週間摂取させた臨床試験においても,そのような消化器症状の発生率の上昇は認められていない(未公表データ)。一方,本研究に用いたサラシアエキスと同じ原料を用いたものではないが,サラシアの安全性に関する報告として,サラシアエキス末配合錠菓を1日摂取目安量の5倍量4週間摂取させた臨床試験において,αグルコシダーゼ阻害活性に起因する可能性のある軽微な腹部膨満感が認められている13)。当該報告は臨床上問題とならない程度の軽度なものであるとされているが,本研究において比較的高いαグルコシダーゼ阻害活性を示したサラシアエキスやキトサンを,ターミナリアベリリカ抽出物を機能性関与成分原料とする製品に有効量以上配合した場合,αグルコシダーゼ阻害作用による消化器症状が生じる可能性は否定できない。この可能性は製品を用いた安全性試験にて消化器症状が生じないことを確認することで否定できるが,製品の安全性試験を行わない場合,ターミナリアベリリカ抽出物以外の機能性原料は有効量未満に配合量を抑えるなどの検討を加えることが望ましいと考えられる。

結論

ターミナリアベリリカ抽出物をはじめとした13種類の原料のリパーゼおよびαグルコシダーゼ阻害活性は,いずれも医薬品の阻害活性とくらべると低く,消化酵素阻害による副作用が医薬品のように生じる可能性は低いと考えられたが,ターミナリアベリリカ抽出物とキトサンおよびサラシアエキスは同程度のαグルコシダーゼ阻害活性を示したことから,ターミナリアベリリカ抽出物とこれらの原料を組み合わせる場合は,配合量を見直すなどの検討を加えることが望ましいと考えられる。

機能性原料のリパーゼおよびαグルコシダーゼ阻害活性①
機能性原料のリパーゼおよびαグルコシダーゼ阻害活性②

文献

1)消費者庁. 「機能性表示食品」って何?. 2015.
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/about_foods_with_function_claims/pdf/150810_1.pdf
2)消費者庁. 機能性表示食品の届出等に関するガイドライン. 2020.
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/pdf/foods_with_function_claims_200401_0002.pdf
3)Shimura S, Ito Y, Yamashita A, Kitano A, Hatano T, Yoshida T, et al. Inhibitory effects of flavonoids on lipase. 日食工会誌 1994; 74: 847-50.
4)Honda M, Hara Y. Inhibition of rat small intestinal sucrase and α-glucosidase activities by tea polyphenols. Biosci Biotech Biochem 1993; 57: 123-4.
5)Hauptman J, Lucas C, Boldrin MN, Collins H, Segal KR. Orlistat in the long-term treatment of obesity in primary care settings, Arch Fam Med 2000; 9: 160-7.
6)Chiasson JL, Josse RG, Gomis R, Hanefeld M, Karasik A, Laakso M, et al. Acarbose for prevention of type 2 diabetes mellitus: the STOP-NIDDM randomised trial, Lancet. 2002; 359: 2072-7.
7)内田大学, 中村晋, 山根天道, 大西俊一郎, 鈴木佐和子, 龍野一郎. テストミールA を用いたミグリトールとボグリボースの食後高血糖抑制効果の比較検討. 糖尿病 2008: 51; 411-8.
8)Anderson JW, Schwartz SM, Hauptman J, Boldrin M, Rossi M, Bansal V, et al. Low-dose orlistat effects on body weight of mildly to moderately overweight individuals: a 16 week, double-blind, placebo-controlled trial. Ann Pharmacother. 2006: 40; 1713-23.
9)Williamson EM. Major herbs of ayurveda. New York: Churchill Livingstone; 2002.
10)草場宣廷, 高野晃, 神谷智康, 山口和也, 髙垣欣也, 田丸靜香ほか. ターミナリアベリリカ®(Terminaliabellirica)抽出物による食後血中中性脂肪上昇抑制作用の検討-無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験-. 薬理と治療 2015: 43; 1175–80.
11)宮元彩希, 髙野晃, 浜亮介, 永峰里花, 小野絵里, 草場宣廷ほか. ターミナリアベリリカ抽出物食品の食後血糖値上昇抑制効果-プラセボ対照ランダム化二重盲検クロスオーバー試験-. 薬理と治療 2017: 45; 1365-72.
12)高野晃, 永峰里花, 尾上貴俊, 神谷智康, 高垣欣也, 早崎夕姫ほか. ターミナリアベリリカ抽出物の食後血中中性脂肪値および食後血糖値上昇抑制作用に関わる成分とその機序. 応用薬理2018: 94; 59-66.
13)食品安全委員会. 特定保健用食品評価書サラシア100. 2014.
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kya20110624096&fileId=201

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