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すいおう(甘藷若葉末)
~期待される研究開発~
鍔田仁人、小野裕之、髙垣欣也
株式会社東洋新薬
FOOD STYLE 21 vol.13 No.3, 31-33, 2009
茎葉食用サツマイモ・すいおう
サツマイモといえば、一般的にはサツマイモの根(芋)をさすことが多い。サツマイモは中南米が原産であり、紀元前3000年頃より食べられている。日本国内においては、好きな野菜の第14位にも選ばれており(出典:NHK放送文化研究所 世論調査部「日本人の好きなもの」2008年)、その食味は好まれている。
サツマイモは、夏に青々とした葉を茂らす。このサツマイモの茎葉は、アジア諸国などでは野菜のひとつとして炒め物などに利用され、葉菜がとりにくい熱帯地の貴重なビタミン源となっている。しかし、我が国においては、沖縄等一部の県で食されている以外はほとんど利用されていない。その理由としては、青臭く、特有のえぐみを持ち、嗜好性に乏しいことが挙げられる。サツマイモの茎葉には豊富な栄養素が含まれていることが昔から知られていたが、豊富に葉菜のある我が国では、その食味のために利用されていなかった。そこで、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農研究業センターによる長年の研究の末、2004年、1,700種以上の中から選ばれ、美味しい茎葉をもつサツマイモが誕生した(図1)。このサツマイモは、その美しい緑の葉に由来して、翠の王様、「翠王(すいおう)」と名づけられた1)。
栄養成分が豊富な茎葉をもつサツマイモ・すいおう
すいおうは食味が良いだけではなく、ミネラルやビタミンを豊富に含有している。鉄・カルシウム・カリウムなどのミネラルはホウレンソウより多く、ビタミンB2はトマトより多く含まれている。また、葉酸も豊富に含まれていることも明らかとなっている。葉酸は二分脊椎の発症リスクを低下させる効果があるとされており、厚生労働省は2000年、妊娠を計画している女性に対し、1日当たり0.4mg以上の摂取を推奨しているなど、近年注目の成分である。
また、近年の研究により、すいおうの葉身にはルテインが豊富に含まれ、その量はケールの約1.5倍、ホウレンソウの約3倍であることが明らかとなっている(Ishiguroら 2004)。これは、これまで報告されている120種の野菜、果物の中でも最も高含有の範疇に属すると考えられる。ルテインはカロテノイドの一種であり、眼病予防3~6)、心疾患予防(Mares-Pelmanら 2002)、皮膚の保護(Stahlら 2000)などに効果的であることが明らかとなっている。
さらにすいおうは、ゴボウやホウレンソウを凌ぐほどの量のポリフェノールを含有している。すいおうに含まれるポリフェノールとして、カフェ酸、クロロゲン酸、トリカフェオイルキナ酸といったカフェ酸誘導体が含まれている(Islam, M.S ら 2002)。これらのポリフェノールには、抗酸化作用(Islam, M.S ら 2003)、抗変異原性作用(Yoshimoto ら 2002)、メラニン生成抑制作用(下園ら 1996)、抗炎症作用(Pelusoら 1995)などがあることが報告されている。このうちトリカフェオイルキナ酸の生理活性はカフェ酸の中でも強いことが知られているが(Yoshimoto ら 2006)、トリカフェオイルキナ酸は他の野菜にはほとんど含まれていないため、すいおうによる摂取が効率的である。
すいおうの機能性
抗メタボリックシンドローム効果
2008年から特定健康診査・特定保健指導、いわゆるメタボリックシンドローム検診が開始されるなど、国を挙げた対策がとられている。メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪蓄積の度合が基準値以上であることに加えて、高血糖、高血圧、脂質異常症のいずれか2つを併発した状態である。メタボリックシンドロームは、心疾患や脳疾患という致死的な疾患に繋がりやすいため、その予防・改善が求められる。メタボリックシンドロームの予防・改善には、食事や運動といった生活習慣の改善が重要である。しかし、継続して食事制限や運動を行うことは困難であり、生活習慣の改善をサポートする健康食品の開発が望まれている。
このメタボリックシンドロームに対し、すいおうの機能性が明らかとなっている。すいおうには血糖値上昇抑制効果があることがダブルブラインド・クロスオーバー試験によって明らかとなっている(草場ら 2008)。20 歳以上50 歳以下の健常人にすいおう(試験食品)またはプラセボ食品を米飯300g とともに被験者に摂取させ、摂取前(0 分)、摂取後30 分、60 分、90 分および120 分の血糖値を測定した。その結果、プラセボ食品摂取30 分後における血糖値が被験者全体の平均値よりも高い被験者において、すいおう摂取時は、プラセボ食品摂取時と比較して米飯負荷後30 分の血糖値が有意に低下することが明らかとなった(図2)。また、すいおうの血糖値改善効果はグァバ抽出物と比較して強い作用を示していることから(鍔田ら 2004)、すいおうの血糖値上昇抑制効果が強いと考えられる。
また、すいおうには抗高血圧作用があることも明らかとなっている(石黒ら 2005)。高血圧自然発症モデルラットにすいおうを1%混合した飼料(低用量群)、3%混合した飼料(高用量群)またはコントロール食(対照群)を与え、血圧を測定した。試験期間を通じて、低用量群および高用量群は収縮期血圧の上昇抑制傾向が見られた。試験開始28日目には、低用量群および高用量群の収縮期血圧は対照群と比較して約10%程度の低下が認められた(図3)。以上により、すいおうは血圧の上昇が抑制されることが明らかとなった。
血糖値上昇抑制効果、抗高血圧効果の他、すいおうには肝臓脂肪抑制効果(鍔田ら 2005)があることも報告されており、すいおうはメタボリックシンドロームに有効な素材であると考えられる。
抗骨粗しょう症効果
また近年、すいおうが更年期障害に対して有効であることが報告されている(鮫島ら 2008)。更年期障害はホルモン分泌バランスが崩れることにより発症し、その症状の1つとして骨粗しょう症が挙げられる。骨粗鬆症は、特に高齢者の骨折の原因となっている。骨折を起こした高齢者は、完治するまでの間に筋力が衰えるため、結果として寝たきり状態となりやすく、転倒・骨折は2004年に行われた国民生活基礎調査において、65歳以上の人が要介護状態になった原因の第3位(10.8%)であることが報告されている。骨粗しょう症の予防の推進が、2004年に厚生労働省が発表した介護予防10年戦略の1つとして掲げられていることからも、骨粗しょう症の改善は高齢者の生活の質(QOL)を維持するための重要な課題であることが明らかである。骨粗しょう症の予防には生活習慣の改善が必要であるが、それは容易ではないため、すいおうのように食生活に気軽に取り入れる健康食品素材は非常に効果的であると考えられる。
おわりに
以上のように、すいおうは栄養豊富であるだけではなく、メタボリックシンドロームや更年期障害への効果もあると考えられている機能性素材である。産・官・学連携によるすいおうの更なる産業化の推進のため、同年11月、新品種産業化研究会(会長:西尾敏彦氏)の分科会としてすいおう分科会が誕生した。2008年12月2日に行われたすいおうシンポジウムでは、すいおうの生産、機能性、応用などに関する講演が行われた(図4)。
すいおうは現在、青汁、サプリメント、焼酎、麺などの商品に利用されているが、その販売はまだ限定的であり、一般的であるとは言いがたい。食味が改善されているすいおうを、より多くの方法で利用し、食事に取り入れることが望まれる。例えば、野菜として炒め物やサラダに入れることや、パンやクッキー等の焼き菓子、ジュースに入れるなど、気軽に摂取できる形での販売が求められる。また、さらなる商品の開発および販売も望まれる。今後はすいおう分科会を中心とし、すいおうの商品開発、研究がさらに発展していくと期待している。
参考文献
1 Ishiguro K, et al., Acta Hore.637:339-345(2004)
2 石黒浩二 :農業および園芸 第81巻 第3号. 345-349(2006)
3 Massacesi A.L., et al., Assoc.Res.Vision Ophthalmol.42:S234(2001)
4 Olmedila B., et al., Nutrition.19:21-24(2003)
5 Koji Ishiguro, et al., Acta Horticulturae.703:253-256(2006)
6 Mares-Perlman J.A., et al., Over view J.Nutr.132:518S-524S(2002)
7 Stahl W, et al., Am.J.Clin.Nutr.71:795-798(2000)
8 Islam M.S.,et al., J. Agric. Food Chem.50:3718-3722 (2002)
9 Islam M.S., et al., J. Food Sci.68:111-116(2003)
10 Yoshimoto M, et al., Biosci Biotech. Biochem.66:2336-2341(2002)
11 Yoshimoto M, et al.,Acta Hort.703:107-115(2006)
12 下園英俊:食科工 第43号. 313-317(1996)
13 草場宣廷ら:農芸化学会2008年度大会
14 鍔田仁人ら:食品と開発. 39,57-83(2004)
15 石黒浩二ら:日本農芸化学会2005年度大会 p277(2005)
16 鍔田仁人ら:日本健康科学学会第21回学術大会 p446 (2005)
17 鮫島まゆら:日本生薬学会第55回年会(2008).工 第43号.313-317(1996)
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