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「葛の花エキスTM」の抗肥満作用に関する研究
Studies on Anti-obesity Effect of Pueraria Flower Extract
神谷智康
株式会社東洋新薬 開発本部
BIO INDUSTRY vol.30 no.11, 50-55, 2013
目次
我々は、マメ科クズ属に属するクズ(Pueraria lobata subsp. thomsonii)の花部の熱水抽出物である「葛の花エキス」の抗肥満作用について、複数の動物試験および臨床試験を行い、その関与成分、作業機序、ヒトへの有効量を明らかにした他、安全性についても知見を蓄積してきた。今後も研究を進め、新たな機能性に関する知見を取得していきたい。
はじめに
クズは、日本、中国、台湾、東南アジアをはじめ世界中に分布する、マメ科クズ属の半低木性のつる性多年生植物である。わが国におけるクズの利用は、葛根湯の原料である「葛根」や葛きりや葛餅などの原料である「葛粉」など、その根部が一般的である。一方、中国や東南アジアにおいては、その花部も古くから利用されている。クズの花部は、「葛花(カッカ)」と呼ばれ、消酒効果が期待され、約1000年前から利用されてきた1)。また、食用としても、中国南部およびその近辺の香港やマカオなどの地域において、「五花茶」という5種類の植物の花を使用したお茶の原料として、少なくとも1950年代頃から用いられてきた2, 3)。さらに、中国の他の地域や韓国においてもクズの花部を用いたお茶が利用されており、近年ではアメリカでも、ゼリーの原料として利用されている2)。
このように、クズの花部は、世界中で広く利用されているが、その機能性に関する研究は多くなされておらず、近年になり、消酒作用4)、肝保護作用5)、脂質代謝改善作用 6)などが報告されるようになった。我々は、このクズの花部に着目し研究を進め、その熱水抽出物である「葛の花エキス」が抗肥満作用を有することを発見し、その作用に関与する成分、作用機序、ヒトへの有効量、さらには、その安全性について知見を取得してきた。本稿では、その知見を紹介する。
「葛の花エキス」とは
「葛の花エキス」(以下、PFE:Pueraria Flower Extract)は、マメ科クズ属に属するクズ(Pueraria lobata subsp. thomsonii)の花部より熱水抽出し、乾燥させた茶褐色~暗褐色の粉末である。PFEは、イソフラボンを含むことで知られている大豆とは異なる、特徴的なイソフラボン類を豊富に含有する(図1)。
動物実験におけるPFEの効果
食餌誘発性肥満モデルマウスでの知見7)
雄性C57BL/6Jマウスを2群に群分けし、高脂肪食(HFD群)またはPFEを混餌した高脂肪食(HFD+PFE群)をそれぞれ14日間制限給餌し、糞中脂質、体重および白色脂肪組織重量(精巣周囲、腸間膜、後腹膜)の測定、肝臓の病理組織学検査による脂肪肝発症程度を評価した。その結果、HFD+PFE群では、HFD群と比較して、体重、体重増加量および白色脂肪組織重量(精巣周囲および後腹膜)の増加が有意に抑制され、脂肪肝の発症も顕著に抑制された (表1、表2)。なお、糞中脂質においては、HFD群とHFD+PFE群で有意差は認められなかった (表1)。
以上のことから、PFEは、食餌誘発性肥満モデルマウスにおいて、抗肥満作用および脂肪肝抑制作用を発揮することが示され、その作用機序としては、脂肪吸収阻害は関与していないことが示された。
抗肥満作用に関与する成分および作用機序に関する知見
PFEの抗肥満作用に関与する成分および作用機序を明らかにすることを目的として、PFEから分画し、その画分を用いた動物試験を行った。雄性C57BL/6Jマウスに、高脂肪食(HFD群)、5%のPFEを混餌した高脂肪食(HFD+PFE群)、1.355%のPFEイソフラボンリッチ画分(収率より5%のPFE相当量となるように調製)をそれぞれ42日間制限給餌し、呼気ガス分析による酸素消費量の測定、褐色脂肪組織のUncoupling protein 1 (UCP1)免疫組織染色、白色脂肪重量(精巣周囲、腸間膜、後腹膜)および肝中中性脂肪を測定した。その結果、白色脂肪重量(精巣周囲、腸間膜、後腹膜、合計)および肝中中性脂肪において、HFD+PFE群およびHFD+ISOF群で、HFD群と比較して有意に低値を示した(表3)。さらに、酸素消費量およびUCP1陽性面積においても、HFD+PFE群およびHFD+ISOF群で、HFD群と比較して有意に高値を示した (図2) 8)。このことから、PFEの抗肥満作用に関与する成分はイソフラボン類であり、その作用機序として、褐色脂肪組織における熱産生亢進が関与していることが示唆された。
次に、PFEの抗肥満作用機序が、褐色脂肪組織における熱産生亢進のみであるかを検証することを目的として、褐色脂肪組織、肝臓および白色脂肪組織における脂質代謝関連遺伝子の発現量を測定した。雄性C57BL/6Jマウスを2群に群分けし、高脂肪食(HFD群)、PFEを混餌した高脂肪食(HFD+PFE群)をそれぞれ14日間制限給餌し、肝臓での脂肪合成遺伝子(Fatty acid synthase (FAS)およびAcetyl-CoA carboxylase (ACC))および脂肪燃焼遺伝子(Carnitine palmitoyltransferase 1 (CPT1)、Medium-chain acyl-CoA dehydrogenase (MCAD)およびAcyl-CoA oxidase (ACO))、白色脂肪組織(精巣周囲脂肪)での脂肪分解系遺伝子(Hormone-sensitive lipase (HSL))および褐色脂肪組織での熱産生系遺伝子(UCP1およびPPAR gamma coactivator 1 alpha (PGC1a))の発現量を測定した。その結果、HFD+PFE群では、HFD群と比較して、肝臓でのACCが有意に低下し、白色脂肪組織でHSLが有意に増加し、褐色脂肪組織でUCP1が有意に増加した (表4)7)。
以上のことから、PFEの抗肥満作用に関与する成分はイソフラボン類であり、そのメカニズムは、褐色脂肪組織におけるUCP1発現亢進を介したエネルギー消費量の増加、肝臓での脂肪合成阻害および白色脂肪組織における脂肪分解促進作用による複合的な作用であることが示唆された。
ヒト試験におけるPFEの効果
探索的研究9)
PFEの摂取がヒトに対して抗肥満作用を発揮するかを検証することを目的として、Body Mass Index (BMI)が23~30もしくはウエスト周囲径が男性85 cm以上、女性90 cm以上の肥満傾向者を対象とした探索的研究を行った。被験者80名を、対照食品摂取群、PFE100 mg/日摂取群、PFE200 mg/日摂取群および300 mg/日摂取群の4群に無作為に割付け、それぞれの食品を8週間摂取させ、BMIおよびCTによる腹部脂肪面積を経時的に測定するプラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を実施した。BMIが24.0以上の男性のみを解析対象とした結果、PFE 300 mg/日摂取群において、対照食品摂取群と比較して、BMIが有意に低下し、腹部総脂肪面積(内臓脂肪面積+皮下脂肪面積)も低下する傾向 (p<0.10)が認められた (図3)。
検証的研究10)
次に、BMIが25以上の軽度肥満男女を用いた検証的研究を行った。被験者90名を性別およびBMIが均等になるよう、対照食品摂取群、PFE200mg/日摂取群、300mg/日摂取群の3群に無作為に割付け、それぞれの食品を12週間にわたり摂取させ、BMIおよびCTによる腹部脂肪面積を経時的に測定するプラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を実施した。
81名の解析対象者において、PFE 300 mg/日摂取群では、摂取前および対照食品摂取群と比較して、BMIおよび腹部内臓脂肪面積が有意に低下した。また、男女別に解析を行ったところ、腹部内臓脂肪面積において、男女共に、対照食品摂取群と比較して有意に低値を示したことから、PFEの抗肥満作用には性差がないものと考えられた(表5)。
PFEの安全性について
PFEは遺伝毒性試験11)急性毒性および亜慢性毒性試験12)にて、その安全性が確認されている。
また、PFEにはイソフラボン類が豊富に含まれるため、そのエストロゲン様作用に起因する安全性を検証した。PFEの主要な配糖体型のイソフラボンであるTectoridin、Tectorigenin-7-O-xylosylglucosideおよび6-Hydroxygenistein-6,7-di-O-glucosideは、消化管にて、それぞれのアグリコン型であるTectorigeninおよび6-Hydroxygenisteinに代謝されることが明らかにされている13,14)。そのため、我々は、Tectorigeninおよび6-Hydroxygenisteinのエストロゲン受容体αおよびβに対するアゴニスト活性を評価した。さらに、ラットにおけるPFEの子宮肥大試験を行い、生体内におけるエストロゲン様作用を評価した。その結果、PFEのイソフラボン類のエストロゲン様作用は、代表的な大豆に含まれるイソフラボンであるGenisteinの1/100~4/100程度の微弱な活性しか有さないことが確認され、子宮肥大試験ではPFE 1000 mg/kg投与においても子宮肥大作用は認められなかった。これらのことから、PFEは、生体内においてエストロゲン様作用を示さないことが示唆された15)。
おわりに
我々は、世界中で利用されているクズの花部に着目し、その熱水抽出物である「葛の花エキス」の抗肥満作用について、その作用に関与する成分、作用機序、ヒトへの有効量、さらには、その安全性について知見を蓄積してきた。我々は、今後も、「葛の花エキス」に関する研究を進め、新たな機能性知見を取得していく予定である。
なお、「葛の花エキス」は、マメ科特有の香ばしい風味を有し、苦味も少なく、溶解性にも優れているため、粉末食品、ドリンク、打錠品など、様々な食品形態への応用が可能である。今後、これらの特徴を生かした商品開発も行い、「葛の花エキス」が広く利用されることを期待する。
引用文献
1) Keung W.M. et al., Phytochemistry, 47, 499-506, 1998.
2) 吉江紀明ら, Food Style 21, 17, 33-36, 2013.
3) Chen Q. et al., Journal of Medicinal Plants Research, 6, 3351-3358, 2012.
4) Yamazaki T. et al., Int J Clin Pharmacol Res, 22, 23-28, 2002.
5) Kinjo J. et al., Chem Pharma Bull., 47, 708-710, 1999.
6) Kubo K. et al., J Nat Med, 66, 622-630, 2012.
7) Kamiya T. et al., Evid Based Complement Alternat Med., 2012, 272710, 2012.
8) Kamiya T. et al., Glob J Health Sci, 4, 147- 155, 2012.
9) Kamiya T. et al., J Health Sci, 57, 521-531, 2011
10) Kamiya T. et al., Biosci Biotechnol Biochem, 76, 1511-1517, 2012.
11) 神谷智康ら,応用薬理,84, 53-58, 2013.
12) Takano A. et al., J Food Sci. (in press)
13) Tsuchihashi R. et al., J Nat Med., 63, 254-260, 2009
14) Hirayama K. et al., Biosci Microflora., 30, 135-140, 2011
15) Kamiya T. et al., Pharmacology & Pharmacy, 4, 255-260, 2013.
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