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葛の花エキスの確かな機能性
藤木航平、高嶋慎一郎、鈴木誠、神谷智康、髙垣欣也
株式会社東洋新薬
FOOD STYLE 21 vol.22 no.8, 88-91, 2018
はじめに
クズは、日本、中国、台湾、東南アジアをはじめ世界中に分布する、マメ科クズ属の多年生植物である。日本でのクズの利用は葛根湯の原料である「葛根」、葛きりや葛餅などの原料である「葛粉」など、その根部が一般的である。一方、中国や東南アジアにおいては、その花部も古くから利用されている。クズの花部は、「葛花(カッカ)」と呼ばれ、消酒作用が期待され、約1000年前から利用されている(1)。また、食用としても、中国南部およびその近辺の香港やマカオなどの地域において、「五花茶」という5種類の植物の花を使用したお茶の原料として用いられており、少なくとも1950年代頃から飲用されている(2)(3)。
クズの花部は、近年になり、肝保護作用、脂質代謝亢進作用などが報告されるようになった。われわれは、このクズの花部に着目し研究を進め、その熱水抽出物である「葛の花エキス」の機能性に関する様々な知見を収集してきた。本稿では、「葛の花エキス」の脂質代謝亢進作用およびヒトにおける体脂肪低減作用を紹介する。
「葛の花エキス」とは
「葛の花エキス」(PFE:Pueraria Flower Extract)は、マメ科クズ属に属するクズ(Pueraria lobata subsp. thomsonii)の花部より熱水抽出し、乾燥させた茶褐色~暗褐色の粉末である。「葛の花エキス」は、テクトリゲニン類と称されるクズの花に特徴的なイソフラボンを豊富に含有する(図1)。
「葛の花エキス」の脂質代謝亢進作用
7週齢の雄性C57BL/6Jマウスを2群に群分けし、高脂肪食(HFD群)、「葛の花エキス」を混餌した高脂肪食(HFD+PFE群)をそれぞれ14日間摂取させた。その結果、HFD+PFE群ではHFD群と比較して、白色脂肪組織重量が有意に低い値を示した。糞中脂質量においては両群間で有意差は認められなかった。脂質代謝に関連する遺伝子発現量は、HFD+PFE群ではHFD群と比較して、肝臓における脂肪酸合成律速酵素であるアシルCoAカルボキシラーゼ(ACC)の発現が有意に低下し、白色脂肪組織における脂質分解酵素であるホルモン感受性リパーゼ(HSL)および褐色脂肪組織におけるエネルギー代謝に関わる脱共役タンパク質(UCP1)の発現が有意に増加した(表1)(4)。
次に「葛の花エキス」中に含まれるイソフラボンの脂質代謝亢進作用への関与について検証した。7週齢の雄性C57BL/6Jマウスを3群に群分けし、高脂肪食(HFD群)、5%のPFEを混餌した高脂肪食(HFD+PFE群)、HFD+PFE群と等量のPFEから分画される、テクトリゲニン類を多く含むイソフラボン画分を混餌した高脂肪食(HFD+ISOF群)をそれぞれ42日間摂取させた。その結果、HFD+PFE群およびHFD+ISOF群では、HFD群と比較して、白色脂肪組織重量が有意に低い値を示した。さらに、酸素消費量および褐色脂肪組織におけるUCPlの発現量が、HFD+PFE群およびHFD+ISOF群で、HFD群と比較して有意に高値を示した(図2)(5)。
このことから、「葛の花エキス」はテクトリゲニン類を有効成分として、肝臓での脂肪合成阻害、白色脂肪組織における脂肪分解促進および褐色脂肪組織におけるUCPl発現亢進を介したエネルギー消費量の増加といった、複合的な脂質代謝亢進作用を有することが示唆された。
「葛の花エキス」のヒトにおける体脂肪低減作用
「葛の花エキス」のヒトにおける体脂肪低減作用は、複数のランダム化比較試験(RCT)より検証されており(6)(7)(8)、これらの結果より、我々は「葛の花エキス」のヒトにおける体脂肪低減作用の有効量を、テクトリゲニン類として35 mg/日と設定した。今回は、より低用量での作用を確認することを目的としたRCTを実施し、知見を得たので紹介する。
Body Mass Index(BMI)が23以上30未満の健常成人男女130名を対象としたプラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を行った。被験者にはプラセボ又は「葛の花エキス」を含む錠剤(テクトリゲニン類として22 mg/日)を12週間摂取させた。その結果、「葛の花エキス」を含む錠剤を摂取した群(葛の花エキス群)ではプラセボを摂取した群(プラセボ群)と比較して、体重、BMI、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、腹部内臓脂肪面積、腹部皮下脂肪面積及び腹部全脂肪面積の変化量が有意に低値を示した(表2)(9)。
さらに、機能性表示食品の対象者である、健常成人(疾病に罹患していない被験者)のみを対象とした層別解析(プラセボ群:32名、葛の花エキス群:30名)においても、葛の花エキス群では、プラセボ群と比較して、体重、BMI、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、腹部内臓脂肪面積、腹部皮下脂肪面積及び腹部全脂肪面積の変化量が有意に低値を示した(10)。
なお、本RCTの結果は、35 mg/日のテクトリゲニン類の摂取で得られる結果と同様であることが示唆されるものであり、低用量(テクトリゲニン類として22 mg/日)の「葛の花エキス」においても体脂肪低減作用が期待できることが明らかとなった。
安全性について
「葛の花エキス」は、遺伝毒性試験(11)、急性毒性及び亜慢性毒性試験(12)、エストロゲン様作用評価試験(13)、並びにヒト長期摂取試験(7)(8)及び過剰摂取試験(14)により、その安全性が確認されている。
おわりに
我々はクズの花部に着目しその熱水抽出物である「葛の花エキス」の機能性及びアプリケーションに関する様々な知見を収集してきた。特に、体脂肪低減作用については、 2016年3月2日付けで、「葛の花エキス」を関与成分とする粉末茶飲料である「葛のめぐみ」が、「体脂肪、お腹の脂肪、お腹周りやウエストサイズが気になる方に適する」旨の特定保健用食品の表示許可を取得している。また、「葛の花エキス」は、風味、溶解性及び安定性などの物理化学的性質も優れており、青汁やスムージーをはじめとする粉末飲料、ペットボトル形態の液体飲料及び錠剤やソフトカプセルなどのいわゆるサプリメント形態など、様々な食品形態への応用が可能であることを確認した。これらの知見をもとに、 2015年4月に施行された機能性表示食品制度においては、「葛の花由来イソフラボン(テクトリゲニン類として)」を機能性関与成分とする、様々な形態の機能性表示食品の届出が受理されている。
現在、多くの機能性表示食品は1日あたりの有効量を、テクトリゲニン類として35 mg/日としている。今回紹介した知見によって、テクトリゲニン類として22 mg/日の摂取での有効性が示されたため、より「葛の花エキス」特有の風味があらわれにくい食品の開発が可能となった。そのため、一般消費者の生活により身近な食品への応用が拡がることを期待している。我々は今後も、さらなる知見の収集を行い、「葛の花エキス」が、より多くの方に利用されるように、磨き上げていきたい。
参考文献
1)Keung W.M. et al.:Phytochemistry,47(4),499–506(1998)
2)吉江紀明ほか:FOOD STYLE 21,17(5),33–36(2013)
3)Chen Q. et al.:J Med Plants Res.,6(17),3351–3358(2012)
4)Kamiya T. et al.:Evid Based Complement Altern Med.,2012,272710(2012)
5)Kamiya T.et al.:Glob J Health Sci.,4(5),147–155(2012)
6)Kamiya T.et al.:J Heal Sci.,57(6),521–531(2011)
7)神谷智康ほか:機能性食品と薬理栄養,7(3),233–249 (2012)
8)Kamiya T.et al.:Biosci Biotechnol Biochem.,76(8),1511–1517(2012)
9)髙野晃ほか:応用薬理,92(3/4),91–102(2017)
10)髙野晃ほか:応用薬理,93(1/2),1–6(2017)
11)神谷智康ほか:応用薬理,84(3/4),53–58(2013)
12)Takano A.et al.:J Food Sci.,78(11),1814-1821(2013)
13)Kamiya T.et al.:Pharmacol Pharm.,4(2),255–260(2013)
14)神谷智康ほか:薬理と治療,41(2),167–182(2012)
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