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「ターミナリアベリリカ」の
糖質・脂質吸収抑制作用
小林祐大1)、髙野晃1)、神谷智康1)、鍔田仁人1)、髙垣欣也1)、田中一成2)
1)株式会社東洋新薬 研究開発本部 2)長崎県立大学 看護栄養学部 栄養健康学科
FOOD STYLE 21 vol.18 no.7, 64-65, 2014
はじめに
Terminalia belliricaはインドをはじめとする南アジアなどの熱帯地域に幅広く原生している落葉樹である。Terminalia belliricaの果実は、古来よりインドにおける伝統薬、“アーユルヴェーダ”にて処方されるトリファラ(Triphala:3つの果実)の1つとして用いられ、抗糖尿病、下痢止め、風邪薬など幅広い用途で使われている1)。また、ポリフェノール類を豊富に含有することが知られており、肝臓保護作用、抗酸化作用などが確認されている1‐4)(図1)。
このTerminalia belliricaの果実から抽出した機能性素材が「ターミナリアベリリカ」(TB)であるが、既にin vitroにおいてα-グルコシダーゼ阻害活性とリパーゼ阻害活性を有することを確認している5, 6)。本稿では、TBの糖質・脂質吸収抑制作用、及び長期摂取における効果について紹介する。
糖質吸収抑制作用
TBを被験物質として健常成人男女8名を対象にクロスオーバー試験を実施した。一晩絶食した被験者にショ糖30 gのみ、またはTB 100 mgとショ糖 30 gを水に溶かして摂取させ、摂取前、摂取30、60、90、120分後の血糖値を測定した。その結果、TBを摂取した群(TB群)は、摂取しなかった群(対照群)と比べて、摂取30分後の血糖値の上昇が有意に抑制された(図2)。
脂質吸収抑制作用
TBを被験物質として健常成人男女34名を対象に二重盲検クロスオーバー試験を実施した。一晩絶食した被験者に、TB 200 mg含有の被験食品1g(TB群)、またはTBを含まない対照食品1g(対照群)を高脂肪食と共に摂取させ、摂取前、摂取2、4、6時間後の血中中性脂肪濃度を測定した。その結果、TB群は対照群に対して、摂取2、4、6時間後の血中中性脂肪濃度の上昇が有意に抑制された(図3)。
長期摂取における効果
4週齢の自然発症肥満型糖尿病モデルマウス(TSODマウス)にTBを3%混餌させた飼料(TB群)、またはTBを含まない飼料(対照群)を8週間自由摂食させた。摂取終了後の、腸間膜脂肪重量を調べたところ対照群に比べて、TB群では有意に低下した。さらに、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRについても、対照群と比べて、TB群では有意な低下が認められた7)。
おわりに
ヒト試験の結果、TB 100 mg摂取時には食後血糖値の上昇抑制作用が、TB 200 mg摂取時には食後血中中性脂肪濃度の上昇抑制作用がそれぞれ確認された。このことから、TBを200 mg摂取することで、食事に含まれる糖質と脂質の両者の吸収抑制作用を発揮することが示唆された。さらには、TSODマウスを用いて長期摂取におけるTBの効果を検証したところ、内臓脂肪の減少、及びHOMA-IRの改善が確認された。これは、TBの食後血糖値、食後血中中性脂肪濃度の上昇抑制を継続することで体脂肪を減少し、さらにはインスリン抵抗性を改善する、と考えることが出来る。
TBと同様に食後血糖値、中性脂肪の上昇抑制に作用する素材としては、水溶性の食物繊維が良く知られており、その用量はグラムオーダーであるため飲料以外への応用が難しい。一方TBは、ヒトにおいて200 mgという少量の摂取で食後血糖値、血中中性脂肪濃度の上昇抑制が示唆されたことから、飲料だけでなく、タブレット、顆粒など幅広い食品形態への応用が可能である。今後、更なる機能性の解明を進めていくが、この特徴を活かした商品開発が活発に行われることを期待したい。
参考文献
1)Williamson EM. ed.: Major herbs of Ayurveda, Churchill Livingstone, Philadelphia, 294–297(2002)
2)Pfundstein B. et al.: Polyphenolic compounds in the fruits of Egyptian medicinal plants (Terminalia bellerica, Terminalia chebula and Terminalia horrida): characterization, quantitation and determination of antioxidant capacities, Phytochemistry, 71, 1132-1148(2010)
3)Jadon A. et al.: Protective effect of Terminalia belerica Roxb. and gallic acid against carbon tetrachloride induced damage in albino rats, J Ethnopharmacol, 109, 214-218(2007)
4)Saleem A. et al.: Total phenolics concentration and antioxidant potential of extracts of medicinal plants of Pakistan, Z Naturforsch C, 56, 973-978(2001)
5)太田雅富ら : Terminalia belliricaからのα-glucosidase阻害活性化合物の探索, 第59回 日本生薬学会 講演要旨集, p77(2012)
6)鮫島まゆら : ターミナリアベリリカ抽出物によるラットの血中中性脂肪上昇抑制作用, 第54回 日本食品科学工学会 大会講演集, p92(2007)
7)Makihara M. et al. : Preventive effect of Terminalia bellirica on obesity and metabolic disorders in spontaneously obese type 2 diabetic model mice, J Nat Med, 16, 459-467(2012)
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