動脈硬化の危険因子とは?疾患との関係や診断基準値を解説
今回は、動脈硬化の発症因子の中でも、「脂質異常症」「高血圧」「喫煙」といった危険因子について解説します。加えて、それぞれの危険因子の基準や各検査項目など、動脈硬化のリスクを知るための方法もご紹介します。
監修:さくら総合病院 循環器センター長 梅津 拓史 先生
動脈硬化とは?
動脈硬化とは「血管内が狭くなり、また通常はしなやかな血管が厚く・硬くなった状態」のこと。詳しくは「血管内へのプラーク(コレステロールをはじめとした脂質の塊)の形成と、動脈壁の肥厚・硬化が生じている」症状です。
動脈硬化の発端は、血管内皮細胞という血管の一番内側にある細胞の障害が原因と言われています。血管内皮細胞が傷つくと内膜にコレステロールの沈着を引き起こし、これが蓄積することで徐々に血管内が狭くなり、さらには血栓ができて血管をつまらせ動脈硬化となり、結果として心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な疾患を引き起こします。
このような血管の変化は無症状で進行するため、その危険因子が何なのかを知っておくことが、非常に大切なのです。
ちなみに血管は内膜・中膜・外膜の3層で形成されています。動脈硬化はその発症部位から内膜に生じる「アテローム性(粥状)動脈硬化症」、中膜に生じる「中膜硬化症」といったタイプがあり、これらはお互いに関連しながら動脈硬化を形成していると言われています1)2)。
動脈硬化の危険因子
心筋梗塞や脳梗塞などにつながる動脈硬化の発症因子は脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙・加齢・肥満などさまざまありますが、中でも「脂質異常症」「高血圧」「喫煙」が3大危険因子といわれています1)。
この3大危険因子はすべて生活習慣病に該当します。そもそも生活習慣病とは、「食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患」です。脂質異常症、高血圧、喫煙以外の生活習慣病は、2型糖尿病、肥満症、高血圧症、アルコール性肝障害などが挙げられます。
生活習慣病は日々の生活習慣の積み重ねによって発症する病気であり、そのうちの3つが動脈硬化の危険因子ということは、日々の生活習慣によって動脈硬化を進めてしまうことも予防することもできると言い換えられます。
例えば、喫煙している場合は禁煙、肥満の場合は食習慣や運動習慣の改善による適切な体重管理などによって動脈硬化の進行を遅らせることが可能です。
動脈硬化の危険因子と疾患の関係
以下のグラフは、「高血圧(収縮期血圧)」「脂質異常(血清コレステロール値)」「喫煙」「血糖値(耐糖能低下)」と心疾患の発症数の関係を調べた、アメリカの調査結果です3)。同じ危険因子をもっていても血圧が高い方が、また同じ血圧でも危険因子の数が多い方が、心疾患リスクが高まることを示しています。
40歳女性の収縮血圧別にみた心血管疾患発症の危険度
日本でも「コレステロール」「血圧」「血糖」はメタボリックシンドロームの診断基準です。また、これらが健康診断で広く検査されているのは、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす動脈硬化の危険因子だからなのです。
では具体的に、どの程度になったら危険なのでしょうか?各検査項目と診断基準値を紹介します。
動脈硬化の危険因子の基準値
では、動脈硬化の危険因子は、具体的にどの程度になったら危険といえるのでしょうか?「コレステロール」「血圧」「血糖」の各検査項目における診断基準値を紹介します。
LDLコレステロール
LDLコレステロール(LDL-C)は、その値が高くなるほど狭心症や心筋梗塞の発症率・死亡数が上昇するといわれ、下表のような診断基準が設定されています4)。
コレステロールは脂肪で水に溶けにくいため、血液中ではリポ蛋白と呼ばれる蛋白質と結合した状態で存在しています。LDLはこのリポ蛋白の一つで、LDLと結合したコレステロール(LDL-C)は血管をはじめとした全身の細胞へコレステロールを運搬する働きがあります。そのため、LDL-Cが高ければ高いほど、血管内部に蓄積されるコレステロールが増えるので、その結果、血管が狭まったり、血管内皮細胞と呼ばれる血管の内側の細胞を傷つけたりするのです。つまりLDL-Cが高ければ高いほど動脈硬化のリスクが高まり、これがLDL-Cが「悪玉コレステロール」と呼ばれる理由です5)6)。
血圧
血圧は高血圧や狭心症・心筋梗塞、脳梗塞などの心臓・血管系疾患の危険因子として非常に有名です。
下表のように、疾病の診断基準が設定されています7)。
血圧とは血管にかかる圧力のこと。血圧が高くなると血管は常にその負荷にさらされるため、血管内皮細胞を傷つけてしまいます8)。そうなるとコレステロールが血管内皮細胞に沈着しやすくなり、血管が狭くなり、さらに血圧が上がりやすくなる悪循環に入り込み、動脈硬化がどんどん進展してしまうのです。
血糖値
血糖値といえば「空腹時血糖値」と「HbA1c」が健康診断でもよく目にする数値です。「HbA1c」とは、血液中に存在するヘモグロビンとブドウ糖が結合したもので、およそ2か月間の血糖コントロール状態を反映する指標です。
糖尿病の診断には「空腹時血糖値が126 mg/dL以上、またはブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間後の血糖値が200 mg/dL以上、またはHbA1cが6.5%以上」が基準とされています。
注意すべきなのは、正常と判断されるには「空腹時血糖と2時間後血糖値の両方が基準値を満たすこと」であり、片方でも基準を超えた場合は正常とはみなされません5)9)。
糖尿病になると慢性的に血糖値が高い状態が続き、高血圧と同じように血管内皮細胞を傷つけ、コレステロールの沈着を引き起こすことで動脈硬化を促進してしまいます。
また空腹時血糖値が正常域であっても食後の血糖値だけが上昇する「食後高血糖」であると、同様に心筋梗塞などの発症を高めてしまうといわれています10)。食後高血糖はブドウ糖負荷試験やHbA1cの数値で推測でき、HbA1cが5.6%を超える場合は食後高血糖が疑わしいとされるので注意が必要です。
まとめ
いかがでしょうか。動脈硬化の危険因子について取り上げ、危険因子と診断基準値がどのように動脈硬化と関係するのか、解説しました。繰り返しになりますが動脈硬化は重篤な症状につながる危険な状態でありながら、自覚症状なしに進行します。
健康診断で測定される自身の検査値を観察して、問題や不安がある場合は医師に相談する、適切な治療を行うなど、早期対処に努めましょう。血管対策の商品開発のことなら、東洋新薬へお問い合わせください。
関連記事:人間ドックで行う動脈硬化の検査4選。受診可能な血管の検査とは
<出典>
1) 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス[21]
2) 小川哲也、[総説]循環系の基礎と臨床 (6)動脈硬化-病因と慢性腎臓病の関与、東京女子医科大学雑誌、87(6)、2017.
3) Kannel WB. Risk factors in hypertension. J Cardiovasc Pharmacol.,13(Suppl.1);S4-10,1989.
4) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版
5) 厚生労働省 e-ヘルスネット
6) 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス[37]
7) 高血圧治療ガイドライン2019年版
8) 田中君枝、佐田政隆、動脈硬化研究の新たな展開、化学と生物、54(10)、2016.
9) 糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版)、糖尿病、55(7)、2012.
10) 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス[48]
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