動脈硬化が起こるメカニズムとは?心臓や脳の病気との関係も解説
よく耳にしながらも、詳しく知らない方が多い「動脈硬化」。動脈硬化は加齢と共に進行し、死因につながる疾患までも引き起こす危険な病変であり、決して侮ってはいけない血管の変化です。
今回は、動脈硬化のメカニズムについて解説します。そもそも動脈硬化とは何か、動脈硬化によって引き起こされる疾患、心筋梗塞や脳梗塞との関係も合わせてご紹介します。
監修 保谷厚生病院 循環器内科部長 梅津 拓史 先生(2022年11月現在)
目次
動脈硬化とは?
動脈硬化とは、本来弾力があり、ゴムのようにしなやかな血管が加齢や血液中で増えすぎた悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が原因で血管の壁が分厚くなり、弾力性を失ってしまう病変のことです。
日本語で「動脈硬化」と聞くと、「単に動脈が硬くなること」を連想してしまいますが、正しくは「血管が硬くなり、血管プラーク(粥腫)ができること」を指します。内膜の粥腫形成(atherosis)とともに中膜の動脈壁硬化(sclerosis)がみられるため、正確には「atherosclerosis」といいます。
動脈硬化を放っておくと、血管プラークができるなどして、血管の内側が狭くなり、血液が流れにくくなり、その先の組織に酸素や栄養が行き届かなくなります。それにより、脳梗塞や心筋梗塞、狭心症など、死に至ることもある病気を引き起こす原因となり得るため、決して侮ることはできません。
動脈硬化のメカニズムとは?
図1. 動脈硬化のメカニズム
動脈硬化の仕組み
では、動脈硬化はどのようなメカニズムで発生するのでしょうか?
動脈硬化は、血管の最も内側にある内膜の細胞層である「血管内皮」の障害から始まります1)。
血管内皮は一酸化窒素(NO)に代表される生理活性物質を放出することで血管の柔軟性(収縮や拡張)を制御する重要な機能を持っていますが、脂質異常症や高血圧など様々な危険因子のストレスを受けることでその機能は低下します。動脈硬化の初期におこる内皮機能の低下は可逆的な機能的変化ですが、血管が危険因子にさらされ続けると、血管の内膜においてマクロファージによるLDLコレステロールの取込みと泡沫化がおこり、プラークの形成などの不可逆的な器質的変化である動脈硬化に進展します(図1)。
動脈硬化の発症起点となる血管内皮
血管内皮は総重量が肝臓に匹敵し、総面積がテニスコート6面分、全長が10万km(地球2 周半)にも相当します。さまざまな生理活性物質を産生するヒト最大の内分泌器官であり、血管機能を制御する最も重要な器官と考えられています。
血管内皮機能の低下は動脈硬化の発症に深く関与するため、血管内皮機能の維持が健康を維持する上で大変重要であると考えられます。
動脈硬化の危険因子
動脈硬化に関与する「危険因子」と呼ばれる条件を多く持つ人ほど、動脈硬化が加速度的に進行することが知られています。危険因子としては、脂質異常症・高血圧・糖尿病、喫煙・加齢・肥満といった因子が知られていますが、その中でも脂質異常症・高血圧・喫煙が特に重要で、3大危険因子とされています。危険因子を持つ場合、血管内皮の異常が引き起こされることが報告されています1)。
これらの危険因子の多くは、「食生活の改善(脂肪分、コレステロールの多い食事を控える)」、「適度な運動(一日30分程度のウォーキング等)」、「喫煙、飲酒を控える」といった生活習慣の見直しにより予防・軽減することができると考えられています。
また、動脈硬化の早期発見、予防に繋がるため、定期的に専門機関で検査を受けることも重要です。
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動脈硬化が引き起こす疾患
William Oslerが遺した「人は血管とともに老いる」という言葉が示す通り、加齢による血管系疾患のリスクは100年以上も前から知られています。中高年になってから起こる、気を付ければよいと誤解されがちですが、実際はなんと、0歳の時点ですでに主な動脈に硬化の初期病変がみられ、10歳前後から急激に進みはじめ、30歳頃になると完成された「動脈硬化」として現れるようになるといわれています3)。
動脈硬化が進展すると「心筋梗塞」や「脳梗塞」など、突然死につながる非常に重篤な疾患を発症します。厚生労働省発表の65~90歳の年齢別死因(図2)によれば、男女ともに心疾患または脳血管疾患を死因とする割合は年齢とともに増加。女性では65, 75, 90歳の全年代で心疾患の割合が第1位となっています4)。
図2. 死因別死亡確率(2010年)/※参考5)より一部改変
また、2018年における傷病別の医療費(図3)では、がんよりも循環器系疾患の方が比率が高く、男女ともに第1位となっています5)。
図3. 傷病別医療費構成割合(2018年)/※参考8)より一部改変
動脈硬化と心筋梗塞の関係
心臓を覆うように流れる冠動脈において動脈硬化が進展するとプラーク(脂質が沈着したコブ)が生じ、これが破裂すると冠動脈内に血栓(血のかたまり)ができてしまいます。また、明らかなプラーク破裂がない場合も血管内皮細胞(血管の最も内側の細胞)の障害や欠損により、血栓が形成されることがあります。すると、血管の内腔が狭くなり、あるいは詰まってしまうことで、血流が途絶・心筋が壊死する「心筋梗塞」を発症します6)。
動脈硬化と脳梗塞の関係
脳血管自体に動脈硬化が生じ、プラークが生じて破裂・閉塞することで発症するケース。首の左右を流れる頸動脈に動脈硬化が生じ、頸動脈のプラークからはがれた血栓が脳血管まで流れてきて詰まることで発症するケース。普段は症状が出ない程度の脳血流が残っている状態で、血圧低下・脱水・貧血・低酸素血症が生じ、虚血・閉塞することで発症するケースがあります7)。
まとめ
いかがでしたでしょうか?動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞を含めた脳卒中などの致死率が高い疾患を引き起こす大変恐ろしい血管の変化であること、そして血管内皮の障害を起点として発症するメカニズムであることをご理解いただけたと思います。
つまり、動脈硬化の予防には「血管内皮機能を低下させない」ということが大切です。血管内皮へのダメージは、高血圧・脂質異常症・喫煙などの危険因子を減らすことで軽減できるため、食事や運動・生活習慣をなるべく早く改善し、血管内皮をケアしていくことが非常に重要であると考えられます。
【出典】
1)酸化ストレスと動脈硬化, YAKUGAKU ZASSI, 2007;127(12):1997-2014
2)男子大学生の強度別身体活動量, 血圧および体脂肪率が血管内皮機能に及ぼす影響―パス解析モデルを用いた検討―. 濵地望ら, 理学療法学, 2022, 49(2): 124-130.
3)頸動脈硬化症の初期病変に関する病理学的検討, 動脈硬化, 1988;16(4):565-571
4)4 死因分析, 厚生労働省
5)平成30年度 国民医療費の概況, 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/18/index.html
6)急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf
7)脳梗塞の分類, 阪大・脳循環グループ
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life10/04.html
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